2012/12/08 ニュース
高くそびえる藍白を、深く支える「地中熱」~東京の新名所「東京スカイツリーⓇ」を訪れて~

12月13日~15日、東京・ビッグサイトで開催される「エコプロダクツ2012」でNPO法人「エコネット」とエコタイムズ社は、武蔵野大学環境学部との連携プロジェクト「分散型エネルギー社会の実現をめざして~内外の新しい動きを探る~」というテーマでブースを展開、国内・海外の最新事例を紹介する。

 

その事例のひとつ、日本初「地中熱」利用による地域冷暖房システム実現した「東京スカイツリー」を学生たちと訪問。同システムを運営・管理する株式会社東武エネルギーマネジメントの常務取締役今野氏から話を聞いた

 

以下、取材に同行した武蔵野大学環境学部の学生たちのレポートを掲載する。

 

  

株式会社東武エネルギーマネジメント 常務取締役 今野氏真一郎氏

 

634mと言えば、今年5月に開業した「東京スカイツリー」の高さだと、多くの方が察するだろう。しかし、「東京スカイツリータウンⓇ」において、国内最高レベルの省エネルギー設備が導入されていることはあまり知られていない。その高さから、つい見上げがちな「東京スカイツリー」だが、地下にも様々な最新設備が隠されている。

 

それが、国内で初めて「地中熱」を利用した地域冷暖房システムだ。

 

地域冷暖房システムとは、DHC=District  Heating & Cooling とも呼ばれるものだ。これは、従来ならば個別の熱源が、各建物の空調を担っていたのに対し、1ヶ所または複数のプラントで冷水・温水を作り、張り巡らされた導管を通して一定地域内の冷暖房・給湯を行うシステムのこと。熱源を集中的に配することで、省エネルギーを達成することができ、CO₂の抑制や、経済性の優れた運用ができる。「東京スカイツリー」ではさらに、「地中熱」をヒートポンプとして利用することで、国内で初めてとなる「地中熱」利用のDHCを導入している。これにより未利用のエネルギーを使えるようにしているのだ。また、国内最高水準のターボ冷凍機や「地中熱」以外の様々なヒートポンプが導入されており、これらにより「東京スカイツリータウン」とその周辺の冷暖房が賄われている。加えて、大容量に水蓄熱槽を設けることで、昼間のピーク電力を抑えることができ、電力問題への対策も取られている。

 

では、具体的にはどのような仕組みで行われているのか。

「東京スカイツリータウン」内で行われている「地中熱」利用とは、水熱源ヒートポンプを用いて、地中から熱を取り出したり、熱を放出したりするシステムだ。

 

気温の変化が激しい空気と異なり、地中の温度は年間を通じてほぼ一定(東京では約18℃)である。そのため、夏季では冷房に、冬季では暖房にと、熱を交換することで、エネルギー消費を抑えた空調が可能となるのだ。「東京スカイツリータウン」内では、地下に打たれた杭の周囲にチューブを取り付け埋める「基礎杭利用方式」と、垂直に掘られた孔にチューブを埋める「ボアホール方式」の2つを導入している。どちらもU字型のチューブ内を水が流れており、これにより採放熱する。ボアホール式では120mもの深さまでチューブが伸ばされている。このチューブは半永久的に使用することが可能で、また中を流れる水の交換も不要となっている。もちろん、基礎杭を使用していても耐震性に問題は無く、実際震災以前に作られた部分ではあるが、被害は無かったとのことだから安心だ。

 

しかし、「地中熱」が空調に占める割合はごくわずかで、数%程度であるという。規模としては、家庭用大型エアコン50台分の冷却能力とのことで、他の機械が1,000台であったりと、桁違いの能力がある。もちろん、「地中熱」ヒートポンプを利用するメリットはある。地中での熱交換は大気よりも効率がよく、一層の省エネルギー化が図れる。また、チューブ内の水は地下からくみ上げたわけではないので、地盤沈下などの影響がない。

 

   地中熱利用システム「熱交換用チューブ」

 

  高さ16m 水深約15m「大容量水蓄熱槽」

 

そして、最大のポイントは“ヒートアイランド現象の抑制”だ。

 

身近なヒートポンプとして、エアコンがあるが、これの課題となるのが外気への熱放出だ。これにより都市部の気温が平均気温以上に上昇する、ヒートアイランド現象を起こしてしまう。しかし、地中と熱のやり取りをすることにより、この問題を解決。同規模ならば、排熱していた熱量を、そのまま削減することができるのだ。

 

また、蓄熱槽の仕組みは至って単純で、水を貯める場所が設けられているだけだ。しかし、これがギリギリの電力供給である昨今において、重要な課題である「いかにピーク電力を抑えるか」を見事に解決している。設けられた蓄熱槽は、25メートルプール17杯分。実に約7,000トンもの貯水量を誇る。これは4つの槽から成っており、主に夜間の電力を使い、それぞれが季節ごとに温水や冷水を貯めている。こうすることで、平均的な夏日でピーク電力を50%もカットすることができるのだ。7,000トンもの水は、災害時には消防用水や23万人分の生活用水として提供される予定だ。

 

では、実際にはどれほどの効果があるのだろうか。稼働から1年を経ていないため、目標となるが、メインプラントを稼働させることで、年間総合エネルギー効率(COP)は国内DHC最高レベルの「1.35」以上の実現を目指す。COPとは年間の入力エネルギーに対する、年間出力エネルギーの比を表わしている。つまり、1.35とは入力エネルギーの1.35倍のエネルギー(冷水・温水等)を出すことができるということだ。国内DHCの平均が0.749だから、かなり高い値であることが分かる。これにより、年間一次エネルギー消費量は、個別方式と比べ約44%減、年間CO₂排出量は約48%減と大幅な削減を目指すことができる。大型の貯水槽、最高水準の大型熱源機器、そして「地中熱」利用により初めてこの目標を掲げることができるのだ。今は稼働を始めたばかりで、今後どうなるか分からない。常務取締役の今野氏によれば「運転を工夫し、目標に近づけていきたい」とのこと。日本一の高さに続き、日本一の省エネルギー達成を目指す。

 

国内での導入事例が少ない「地中熱」利用ヒートポンプだが、欧米や米国ではかなりの普及をみせている。特に米国では、2005年時点において日本の2,000倍もの台数が利用されている。また、近年では中国でも普及が進んでおり、世界第2位の利用数を誇る。遅れをとる日本だが、普及への課題として高額な初期投資(掘削や設備)がある。これを抑えるためには、矛盾するようだが「地中熱」利用の普及が必要だ。導入件数が増えていけば、設備も安価になるし、技術開発も進む。「東京スカイツリータウン」での導入が呼び水となることを、願ってやまない。

(武蔵野大学 環境学部 三井翔太 生田目雄太)