来る12月13日~15日、東京・ビッグサイトで開催される「エコプロダクツ2012」でNPO法人「エコネット」とエコタイムズ社は、武蔵野大学環境学部との連携プロジェクト「分散型エネルギー社会の実現をめざして~内外の新しい動きを探る~」というテーマでブースを展開、国内・海外の最新事例を紹介する。
その事例のひとつとして紹介する、今年4月に「ガスコージェネ+太陽光+蓄電池」を活用したスマートハイブリッドマンション(エネルギー自立型災害対応マンション)「ALFY橋本」を建設したレモンガス株式会社を学生たちと訪問。エネルギーソリューション統括本部長柴田氏から話を聞いた。
※レモンガス株式会社エネルギーソリューション統括本部長柴田氏
以下、取材を敢行した武蔵野大学環境学部の学生たちのレポートを掲載する。
昭和17年の練炭製造会社から始まったレモンガス株式会社。その名前のコンセプトは奥深く、『LEMON』の一文字一文字に意味が込められている。
L…LPGという
E…エネルギーを
M…媒介として(Media)
O…開かれた(Open)
N…ネットワークを構築する(Network)
LPガスはメディアの一つであり、全国のネットワークを構築する事を目的に活動している。(レモンガスHPから引用)―昭和初期のころ厨房、暖房用として練炭を扱う会社は多く、レモンガス(当時は蒲田練炭株式会社)もその一つであった。ガスの出現によってその需要は減少し多くの練炭会社が倒産する中、レモンガスは次世代のエネルギーは液体燃料からガス体に変化していくことを感知、昭和35年にガス事業を開始したのである。その実績は家庭用、業務用に取り入れられ、現在では全国の大手外食チェーンにおいて1200以上の店舗で利用されており、今年4月、LPガスを使った「分散型エネルギーシステム」の基礎となり得る次世代型マンションを実現した。このように今では全国展開しているレモンガスだがLPガス業界という競争の激しい世界の中で「分散型エネルギー」を目指し、いかにして成長してきたのだろうか。
レモンガスは厨房、給湯の熱源としてのガス供給だけでなく、常に新たなる需要の開発に目を向けてきた。30年前には畳大ほどの太陽熱パネルを屋根に5~10枚ほど設置、貯湯槽は軒下に設置という本格的な太陽熱を販売。吸収式冷暖房システムもいち早く取り入れた。また、やがてはガス会社が電気を売る時代が来ることを予想。20年ほど前から家庭用コージェネは如何にあるべきか研究を開始した。「ALFY(アルフィ)橋本」は、レモンガスの今日までの研究、実証結果の集合体といえる。
コージェネレーション(電気と共に熱を供給する仕組み)や太陽光を取り入れたスマートハイブリッドマンション「ALFY橋本」は環境問題にも積極的に取り組んでいる。それだけでなくネットワークによる安全管理のインフォメーションテクノロジー、おいしい水を提供するヘルス事業なども手掛けている。そのため同業界からはいろいろなものに手を出しすぎているとレモンガスを異端視する声も大きいそうだ。このような声に対し、エネルギーソリューション統括本部長柴田氏は「省エネ、少子化によってLPガスの需要は減っており厨房、給湯のみのLPガスだけでは30年続かない。だから需要を増やすために革命的な考えが必要だ。」と熱く語る。減少を続けるLPガスの需要を増やしていくために多くの事業を手掛けるようになりこのような体制になった。これが“異端児”と呼ばれる理由である。
ではどうしてLPガスを普及させることが環境配慮、さらには「地域分散型エネルギー」成りうるのか?それはLPガスが熱量、運搬、防災の3つの観点で都市ガスよりも優れているからだ。
LPガスの発熱量をカロリー計算で示すと、都市ガスが約12000kca/m3であるのに対して、LPガスは約24000kca/m3と2倍以上の優位性がある。強力な火力を必要とする中華料理屋でガスボンベを目にするのにはこのような理由があるのだ。またプロパンとブタンを主成分とするLPガスは常温・常圧では気体だが、圧力を加えたり冷却したりする事で簡単に液体に変わる。このように圧縮することができない都市ガスに比べ運搬し易い。レモンガスではこの特徴を生かして液体のまま家庭や店舗に運び気体にして利用している。レモンガスではネットワークを利用した制御システムやセキュリティを取り入れているため安全面でも優秀だ。
そして、災害に強いというのが一番の特徴であり、現在再び注目を浴びている要因だ。集中配管型の都市ガスは震災などの災害時に配管が破損した場合、ガスの供給が止まり復旧にも多くの時間を要するのに対し、LPガスは利用者単位で保存タンクが独立しているため、ボンベが破損しない限り供給が止まることはない。実際平成7年に起こった阪神淡路大震災では都市ガスの復旧に3カ月を要したのに対し、LPガスは14日で復旧したという実績がある。今回建設された「ALFY橋本」では東北大震災を教訓に露出していたガスボンベが津波にさらわれないよう地下に埋設された。
環境配慮や安全性、都市ガスの2倍の発熱能力や災害への強さなど、LPガスは今後「分散型社会」を構築する上で重要な役割を果たすのだ。
災害が起きた時、電力もガスも止まった時、私たちはどうなってしまうのか。その不安が現実味を帯びる現在において解決策を見出したのが、レモンガスの提案する次世代マンション「スマートハイブリッドマンション ALFY橋本」である。LPガスコージェネレーションと太陽光を使った発電を行い、コージェネによって生じた排熱も給湯や室内暖房に有効利用される。災害時、都市ガスや電力供給が止まっても、LPガスを使用しているためボンベが破損しない限り供給に影響はなく(先述したがボンベは埋設されているため破損するとは考えにくい)、LPガスコージェネによって電力は確保される。さらに断水時を想定して地下の貯水槽に8トンの飲料水を貯水しており、万一貯水槽の水が尽きてしまっても熱媒体として利用しているバッファタンク内の水をも飲料水として使用できる。「ALFY橋本」は災害を見通した設計がなされており、マンション自体に発電能力が備え付けられているので、エネルギーの“自産自消”を表しているといえる。
商用日本初!エネルギー自立型災害対応マンション「ALFY橋本」の外観と2基の「コージェネレーション」
LPガスコージェネレーションと太陽光を使いエネルギー自立を達成している「ALFY橋本」であるがその発電量はどの程度か。レモンガスによれば、一般的な世帯当たりのエネルギー消費量の中ではLPガスコージェネレーションは全電力の60%以上を、太陽光発電で約15%を発電している。コージェネ発電によって生じた排熱も給湯、風呂の追い炊きや室内暖房に有効利用されている。
太陽光発電では夜間や電力消費のピーク時に対応できないのではないかという不安もあるが、それもこのマンションは解決している。レモンガスの資料によると、「ALFY橋本」では太陽光によって発電された余剰電力をリチウムイオン蓄電池に蓄電しておき、それを夜間に利用する。日中の電力ピーク時では、夜間のLPガスコージェネレーションによって発電した余剰電力を蓄電しておき、それを充てるという仕組みになっている。このシステムにより「ALFY橋本」は従来のマンションと比較して、33,5%の二酸化炭素排出削減に成功したのである。
建物構造は地下1階の貯水槽と地上6階で構成されている。1階は体験型ショールームで屋外には地域の人とのコミュニティ形成を促す足湯も設置されている(エネファームの排熱利用)。2階から6階は居住スペースで、2階の一部はコミュニティスペースが設けてあり、災害時などは避難所としても利用可能である。マンションでは発電した電力でテレビを使用し、情報を得られるようにしてある。さらに「ALFY橋本」は、居住者と近隣の住民を対象にカーシェアリングシステムを導入しており、太陽光発電で得た電力を電気自動車の電力に利用している。エネルギーを無駄なく使うというエコなマンションである。ここまで設備が整っているにも関わらず、家賃はこの地域の相場に合わせて9万円。システムが十分経済的であることを表わしているだろう。
「常に5年先を見る」とはレモンガス株式会社の赤津会長の言葉だ。レモンガスの企業活動は常に5年先に何があるか、何が起こるかという想定のもとに行われている。「ALFY橋本」は一昨年の10月に震災、災害に強い住宅を作るというコンセプトのもとに設計、昨年1月より建設が開始された。その方針はレモンガス株式会社を前に導いている。これこそがレモンガス成長の最たる理由であろう。エネルギー不足という危機的状況の中、レモンガスはエネルギー自立型の住宅を作り「分散型エネルギー」構築に向け歩みを続けている。常に5年先を見る、このような考え方がこれからの世の中に必要なのだ。
(武蔵野大学 環境学部 三井翔太・生田目雄太)