昨年7月にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)で、一般家庭での数kWのシステムからメガソーラーと呼ばれる数MWの大型発電施設まで、さまざまな規模の太陽光発電システムの設置が飛躍的に拡大している。今後、太陽光発電はどのように普及拡大していくのか。また産業としての太陽光発電はどこに向かおうとしているのか。太陽光発電協会(JPEA)技術部長兼広報部長である亀田正明氏に太陽光発電の現状、課題、そして将来について話を伺った。
太陽光発電協会 技術部長兼広報部長 亀田正明氏
(略歴)
1959年生まれ。大阪市立大学大学院応用物理学研究科修了。
1985年 三洋電機株式会社入社。以来、太陽電池の研究開発、事業に従事。
2009年より太陽光発電協会技術部長兼広報部長に就任、現在に至る
Q.協会設立が1987年、20数年経過していますが、まず協会の成り立ちからお聞かせください。
設立当時は「太陽光発電懇話会」という名称で、有志10社1団体が発起人となり、太陽光発電の技術開発や利用に関する情報交換を行う日本で初めての業界団体として誕生しました。会員にはメーカー、販売・施工業者、電力会社、政府機関などが名を連ねるユニークな業界団体となりました。初代代表は京セラの稲盛和夫、副代表に三洋電機の山野大、NEDOの杉本健、東京電力の三井恒夫の各氏が就任、66法人でのスタートでした。設立当初は、電卓や時計などの製品への応用がほとんどであり、国内外の無電化地域の独立電源用や人工衛星用の電源としての研究開発は、始まったばかりでした。
その後、住宅用の太陽光発電が増加し主流となりました。これは国の施策としての電力系統への連系認可(1992年)、電力会社の自主的な取組としての余剰電力買い取り制度(1992年)、そして業界関係者のコストダウン努力という要素がうまく組み合わさり、世界的にも類を見ない太陽光発電の普及を実現したものです。
そして「太陽光発電懇話会」は、2000年に「太陽光発電協会」に改称し、2008年に一般社団法人に組織変更しました。名称は変わりましたが、活動の趣旨は、一貫して太陽光発電の普及促進と産業の発展に寄与することです。国内では、住宅用太陽光発電市場が順調に伸びて、今では、屋根に太陽光発電のある家は、当たり前の風景になっています。
協会の会員も順調に増加し、2013年6月13日現在147社・団体が加盟しており、メーカー、電力・エネルギー関連、販売・施工業者にエネルギーシステムディベロッパー、商社、展示会主催会社、薬品会社などの異業種からの参加も目立ってきています。
Q.ラックリサーチの調査で太陽光発電は2018年に1,550億ドル市場に成長すると予測していますが、現状の太陽光発電市場をお聞かせください。
まず国内市場についてお話ししましょう。太陽光発電業界は、固定価格買取制度(日本版FIT)が始まったことで大きな転換を迎えました。それは、これまで住宅分野での太陽光発電設置が主だったのがFITにより“非住宅”分野における太陽光発電の設置件数が急増したことです。これまで日本の太陽光発電は“住宅用”が8割を占めるなど、欧米と異なる発展をしてきましたが、FITにより日本の市場が大きく様変わりしたのです。“非住宅”事業には遊休地を利用した発電事業や工場の屋根などを利用した「屋根貸し」事業、それをサポートする金融、保険事業など、これまでにない異業種からの新規参入も多数含まれています。協会の予想を上回る伸びには、私たちにも驚きであり、うれしい悲鳴です。もちろん、従来から多くのシェアを占めていた“住宅用”も補助金制度が継続していることもあり、伸び続けているのですが、“非住宅”はそれを上回る勢いで伸びています。FITがいかに効力のある政策手段であるかということをひしひしと実感している次第です。
国内向けの太陽電池年間出荷量の推移(JPEA調べ)
太陽光発電協会では「JPEA PV JAPAN 2030」という2030年に“10兆円産業を目指して”というシナリオを作成しています。このシナリオでは、産業発展の観点から2030年の目標は100GWの累積導入量としています。この導入目標は総発電電力量の10%に相当します。その中で“住宅用”市場では、戸建住宅が2020年まで市場は急拡大するであろうと予想。さらに集合住宅用の市場でも緩やかに市場が創出され、拡大して行くだろうと予想しています。そして、私たちが注目しているのが、“非住宅用”の太陽光発電事業の中でも中小規模の太陽光発電事業です。10kW~50kW未満の中小規模の太陽光発電事業がいま急速に伸びてきているのです。私たちも伸びてくるだろうとは予測していたのですが、その予測以上の拡大を見せています。中小規模の太陽光発電は発電設備の法律規制の部門で“低圧”に接続する、低圧連系発電設備に相当するのですが、比較的簡単に設備を導入しやすいことも、拡大の理由かもしれません。工場や倉庫、事務所の屋根や遊休地などへの活用が進んでいます。また、“住宅用”の中でも、この中小規模の太陽光発電の受注が増えています。これは、「全量買取制度」を利用したい大きな敷地の家とか、地方では母屋や納屋など多くの建物を所有している農家などがすべての屋根を活用して太陽光発電システムを設置する例などが見られます。そういう意味では「分散型」の太陽エネルギー発電が増えてきている、といえます。「分散型エネルギー」の社会の実現、ということを考えると、中小規模の太陽光発電システムが拡がることによって、太陽光のいい面、可能性がますます拡大していくと思います。
海外の市場を見ますと、従来は日本、米国、欧州がリーダーとなって世界の太陽光発電を牽引してきましたが、ここにきて中国をはじめ、その他の地域での導入事例が進みつつあります。中国では、最近輸出産業としての太陽光発電だけでなく自国内での需要が拡大しつつあり、太陽光発電設備の導入事例が増えてきています。また、中国以外の地域、例えば南米やアフリカ、中東、東南アジア等の国々でも、導入が高まってきています。太陽光発電が本当に地球上にグローバルに広がり始めた、というのが実感です。
Q.では、太陽光発電事業がさらなる飛躍をするためには、どのような課題・問題点があるのでしょうか
おかげさまで太陽光発電市場は拡大を続けています。しかし、一方でまだまだ環境整備を続けていく必要がある、と思っています。固定価格買取制度(FIT)は、電気を買い取るための制度であり、設置に係る規制などの課題がまだまだ解決されていません。太陽光発電が導入しやすい方向に規制を緩和していただくというのが重要です。
例えば、農地法の問題。農地における太陽光発電設置に関しての問題が注目されています。農地をどう活用することができるのか。農業をしながら発電をするなど、農地に太陽光発電を設置することで農家の方々の収入アップが見込まれるようにする工夫が必要です。先進国であるドイツでは、“電気の畑”と呼んで、農地や畜舎などの建物の屋根に太陽光発電システムを設置したりして農業や畜産業の収入アップにつながっている事例がたくさんあります。
日本でも農地法面や畦畔(けいはん)を利活用した太陽光発電設備設置に係る基準の見直しが進んでいます。これは休耕田とか納屋の活用、あるいは農地法面や畦畔(けいはん)などを活用したりする施策を進めていくということです。畦畔(けいはん)とは田畑の端にあって、通行、施肥、保水など、田畑本来の用途である耕作以外の用途に供せられる細長い土地部分のことで、「あぜ道」などの名前で親しまれている所です。農村地域の農地に占める畦畔率は高く、太陽光パネル設置による未利用地の活用が大いに期待されています。
その他、系統連系に係る課題があります。どうやって、「分散電源」をいまのネットワークに取り組んでいくかが大事になってきます。自然エネルギーは不安定電源ですから、これを上手に使うネットワークにどう変身、変化させていくかが今後の普及には大切なことです。この系統連系の問題は太陽光発電協会だけでなく、風力発電協会をはじめ、他の再生可能エネルギー関連組織・団体とも一緒に政府関係者を含め解決の道を探っているところです。
次に太陽光発電システムがここまで普及してきますと、不安定電源とはいえ、ある程度の安定性が必要になります。ソーラーパネルメーカーは、自社製品に「出力保証」をつけており、設置後に不具合が発生して出力が低下した場合には、製品の交換などに応じています。また、太陽電池モジュールではJET(電気安全環境研究所)などが国際標準やこれに対応したJIS規格に基づいて、認証を行い、合格したモジュールにはJET等のラベルが表記されます。JET等の国際基準やJIS基準の認証を受けていない製品は、現在の国の住宅用太陽光発電設備への補助が受けられません。その他の認証された太陽電池モジュールが要求されないケースであっても認証品を使っていただくことを協会としてはお勧めしています。新しい分野の製品機器ですから、これから新たな課題が出てくることもあると思います。その都度対応していくことにはなると思いますが、消費者が安心して使っていただくように認証制度なども常に見直しを図っていくことが大切だと考えています。
Q.現状のさまざまな課題に対し、現時点で課題を解決する施策などありますか
機器の課題以外に「施工品質」の課題がありますが、その課題解決のひとつとして、また、「施工品質」の維持向上のために、一定以上の施工技術と知識を持つ者を太陽光発電システムの施工技術者として認定する制度を今年から始めました。これは、「PV施工技術者制度」という名称で行われるものです。設置する段階で施工技術が不適切であると、機器の性能が優れていていても、システムが十分に機能しなかったり、トラブルの原因になる可能性があります。今後も拡大し続ける施工技術者の技能を維持し、システムの施工面での品質を確保するために認定制度を設けました。この制度により施工に関する一定の基礎的な知識や技術レベルを持つ者を確認・確保できます。今年3月に第1回目の認定試験を実施。2000人ほどの受験者があり、8割から9割近くの受験者が合格。認定書を授与されました。認定試験は年に2回程度行う予定で、次は8月25日を予定しています。さらに、更新制度を設けており、認定者の方には、4年に一度の更新時に新しい知識や実際に発生したトラブル事例など学んでいただき、技術のレベルアップを図ってもらいます。
Q.最後に、これから太陽光発電産業が目指す道、展望などをお聞かせください。
3.11以降、日本の電力供給システムは大きく変わろうとしています。再生可能エネルギーは「分散電源」としての期待が高まっており、設置までのリードタイムの短い太陽光発電が再生可能エネルギーのトップランナーとして、新たな制度の成功の可否を握る重要な役割を担っていると言えます。
また、日本の太陽光発電産業が生き残りをかけてこれからの産業を切り開いていくには、社会システムとしてどのように太陽光発電を安定した国内市場に定着させていくかにかかっているといっても過言ではないと思います。ますますグローバル化した世界の太陽光発電市場の中で付加価値を高め、総合的な再生可能エネルギーサービス業として成長していくことが必要です。そのために、日本がどう世界をリードしていけるのかを真剣に討論しています。
私たちが結論づけた答えは、『生産地や需要地を問わない日本ブランドの確立』です。現在、日本が直面しているエネルギー・環境問題の解が社会インフラの中のキーコンポーネントである太陽電池を組むことで得られるならば、世界のモデルケースとなり、再び、この産業が世界に飛躍するチャンスとなると確信しています。そのために協会として「日本ブランドの力」を活かしながら、業態・業種を超えて世界で通用する日本型普及モデルの確立を目指しています。また、「太陽光」という立場から、より良い暮らしの実現と新しい産業モデルの創造に貢献してまいりたいと考えています。私自身も長年太陽光に携わってきて、一人の技術者として、地球環境を維持し、このきれいな地球を守っていくために「太陽光」は強力なツールではないかと思っています。これから太陽光発電が普及拡大していくのを見続けたいし、その中で少しでも役に立ちたいといつも考え、太陽光発電事業の更なる発展のために日々努力をしています。
ご協力ありがとうございました。
(取材)若生幸成