2012/11/09 ニュース
“川とともに生きる”~「小水力発電」のまち、山梨県都留市~

来る12月13日~15日、東京・ビッグサイトで開催される

「エコプロダクツ2012」でNPO法人「エコネット」とエコタイムズ社は

武蔵野大学環境学部との連携プロジェクト

「分散型エネルギー社会の実現をめざして~内外の新しい動きを探る~」

というテーマでブースを展開、国内・海外の最新事例を紹介する。

今回は、その事例のひとつとして紹介する

「水の力をエネルギーに。小水力発電のまち」

山梨県都留市の小水力発電施設を学生たちと視察。

都留市役所産業観光課の河野氏から話を聞いた。

 

以下は、取材を敢行した武蔵野大学環境学部の学生のレポートである。

 

 バシャンバシャンと音を立て水車が回る。思いのほか大きなそれは水しぶきを上げ、今日も発電に勤しんでいた。

  

開放型上掛け水車「元気くん2号」 出力19kW 有効落差3,5M 平成22年5月24日稼働

 

山梨県都留市は江戸時代より川と近い生活を送ってきた地域で、市内を流れる家中川では今も水車が回っている。しかしその用途は、紡績の動力から発電へと姿を変えていた。都留市は市民発電所として「小水力発電」を運営する珍しい場所で、市役所前には「元気くん」1号と名付けられた木製の水車が回っている。直径6mの水車は、実際に目の当たりにすると大きく、バシャンバシャンとゆっくり回る姿は、どこか落ち着かせてくれる魅力を秘めている。これに加え、同じ川に「元気くん」2号、3号が設置され、発電された電力を市役所へ送っている。「小水力発電」とはダムを用いて落差を作る一般的な水力発電とは異なり、自然の河川で生じる小さな落差を活かした発電のことだ。ダム建設などの大規模な土地整備という欠点を補うことができる。また、電力問題が相次ぐ現在において、地域ごとに電力を自給する、いわゆる「地域分散型エネルギーシステム」を達成するために、「太陽光」や「小水力」は注目を集めている。では、都留市の「小水力発電」にはどれほどの力があるのか。

ここで注目したいのが電力自給率だ。発電された電力は、一部が売電されながらも市役所で使用される電力の半分程度を年間平均して自給できており、売電しなければ100%近い自給率を達成している月すら存在している。当然のことながら、電力を自給できれば電気を購入する必要がなくなる。それは火力発電に依存し、二酸化炭素を排出して発電された電力会社の電力を削減することを意味している。つまり、電気を使用しながらも、環境に配慮した生活を送ることができるのだ。それだけではない。災害により送電が断たれたとしても電気を使うことができる。防災面でも、「小水力」は大きな可能性を秘めているのだ。

 

同じ川にある「元気くん」だが、設置されたそれぞれの地形が持つポテンシャルを十分に活かすため異なる方法で発電している。市役所前にある1号は“下掛け式”と言われるタイプで、水車の下部のみを使い、水の力を得ている。これには除塵装置が付けられており、川を流れてきたゴミを発電水路に入れない役目ももつ。最も川下にある2号は水車の上から水がかかる“上掛け式”と言われるタイプで、轟々と流れる水が飛沫を上げておちる様子はとても迫力がある。最新の3号は青いらせん状をした金属で、落差が非常に小さい場所での利用に適した形状をしている。地形を変えるのではなく、地形が持つポテンシャルを活かすことの大切さを彼らは教えてくれるのだ。また、彼らには“可変速ギア”というものが備えられており、水量に合わせ自動的にギアを調節し、回転数を調節するのだという。これにより流れの多い時期には回転数を抑え、1回転の発電量を大きくし、流れの少ない時期には回転しやすくするといった対応ができるようになり、季節により大きく変化する水量に対応しているのだ。この画期的な機構は、「風力発電」からヒントを得て都留市が企業と共に開発したもので、水車への負担も軽減している。

  

開放型下掛け水車「元気くん1号」            開放型らせん水車「元気くん3号」

 

 「元気くん」の建設は市民にも変化を起こしている。一番の変化は、川がキレイになったことだ。「元気くん」には除塵装置が備えられているため川を流れるゴミがそこに引っかかり、見えるようになる。これにより川をキレイにしなければならないというインセンティブが働くのだ。それだけでなく、市外から「元気くん」を視察に訪れた人々を見かけることで、「はずかしい」という感覚が生まれ、よりインセンティブが働く。これと同時に、注目されるほど凄いことを行っているのだと市民に知ってもらえるのだという。実際お話を伺った都留市役所職員の方によると、川は勿論のこと町そのものがキレイになったとのことだ。

 

 このように市民の意識が変わった理由は、市民が水車建設に関わっているからだ。「元気くん」を建設するための費用は、「つるのおんがえし債」という公募債を導入することで賄っている。1号建設の際には当選人数の4倍以上から募集があり、当初から賛同が多かったことが伺える。同時に、“自分たちが建設に関わった”という思いがあるため、市民に意識が根付いているのだ。この公募債の優れている点として、1口あたりの金額を小さく設定してあることがある。これにより、より多くの人が建設に携わることが出来るのだ。都留市の「小水力発電」が『小水力市民発電所』と呼ばれる所以がそこにある。

 

都留市の環境への取り組みはこれだけではない。「エコバラタウン」と呼ばれるポータルサイトを開設し、そこで家庭で排出される二酸化炭素がどれくらいの量になるのか計算し、“見える化”するシステムを導入している。昨年の震災をきっかけに登録数が急増したそうだ。ハード面では、「エコハウス」や「城南創庫」と呼ばれる植物工場を建設し、公開している。

「元気くん」が発電した電力は、市役所に送られるが全てを市役所内で使用しているわけではなく、併設されている「エコハウス」と「城南創庫」にも電力を送っている(前述した自給率はこれら3つの施設全ての自給率を示している)。「エコハウス」は、都留市の気候にあった住まいのモデルハウスとして建設され、太陽熱を利用した床暖房システムである“OMソーラー”の設置、薪ストーブや自然通風の利用など電力使用を極力抑えた家となっている。だが、なにもこの家を売り込んでいくことが目的ではない。「エコハウス」を見学することで自らのライフスタイルを考えるきっかけを得て欲しい、とのことである。

 

既に様々な環境面への取り組みが行われている都留市だが、今後はどうしていくのだろう?職員の方によると「元気くん」4号以降を建設する予定はないとのこと。いつまでも行政が先導していては民間が育たないばかりか仕事を奪うことにもなりかねないからだ。今後は培ってきた技術提供や実験できる場の提供などを行っていく予定だ。また「小水力」で利用してきた川は森によって作られているという考え方から、林業など活動を森へ広めていくのだと言う。環境をブランドとする商品の開発など、環境と産業を両立することができる方法を模索し、これらのバランスが取れた【エコバランスタウン】として都留市を発展させていけるように活動していきたいという。

電力問題や、過疎化が進む地域が多い昨今において、都留市の取り組みはこれらの解決策に成りうるかもしれない。今後の取り組みが期待される。  (レポート記事)武蔵野大学環境学部 三井翔太 生田目雄太

 

■日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ2012」では、NPO法人「エコネット」のブースにて、国内・海外の最新事例をパネルで紹介するとともに、「小水力」「メガソーラー」「洋上風力発電」「地中熱」などの事例をビデオにてオンエアします。

http://eco-pro.com/eco2012/