2013/06/21 ニュース
小水力開発支援協会代表理事に聞く~合理的で強靭な「地域エネルギーシステム」の構築を目指して~

最も古くからエネルギー源として活用されてきた「小水力」。環境省が2011年4月に公表した「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」によると、河川部で中小水力の導入ポテンシャルは1,400万kWと明記されている。今後の開発・普及ポテンシャルはまだ十分に存在しているといえる。「小水力」事業を推進する小水力開発支援協会の代表理事であり、全国小水力利用推進協議会事務局長の中島大氏に小水力発電事業の現状・課題などを聞いた。

 

小水力開発支援協会 代表理事

全国小水力利用推進協議会 事務局長 中島大氏


(略歴)

1961年東京生まれ 1985年東京大学理学部物理学科卒

1985年から1992年(財)ふるさと情報センター勤務を経て、1992年(株)ヴァイアブルテクノロジー取締役就任。2005年全国小水力利用促進協議会設立に参画し、事務局長に就任。2009年には(社)小水力開発支援協会設立に参画し、2010年代表理事に就任。

現在、全国小水力利用推進協議会事務局長を兼任するとともに、(社)日本再生可能エネルギー協会理事、NPO気候ネットワーク運営委員、NPO環境エネルギー政策研究所理事非常勤。

 

Q.はじめに「小水力開発支援協会」と「全国小水力利用促進協議会」の関係についてお聞かせください。

 

まず、「小水力」のお話からさせていただきます。「小水力」は日本各地で利用された歴史が長く、しかも安定した良質なエネルギーが得られる自然エネルギー源です。また、「小水力」利用の場合は、事前調査も簡単であり簡易な土木工事で設置できることも多く、他の自然エネルギーにない経済面・普及面の特長があります。さらに地域の活性化とエネルギー自給を支える核として頼れる力を持っています。この「小水力」利用を進めるためには、「小水力」について一般の理解や関心を深め、その技術的進歩をはかり、実施上の障害を取り除き、規制緩和などをすすめ、情報を交換し知恵を出し合うため、関係者が相互に協力する必要があります。こうした問題意識を共有する各方面の方々が力を合わせ、日本中に小水力利用の環を広げるために「全国小水力利用推進協議会」が2005年7月16日に設立されました。協議会は、小水力利用推進に関する調査研究を行うとともに、小水力利用事業の普及発展を図り、持続可能な循環型社会の構築と環境保全に寄与することを目的とした任意団体です。

 

一方、「小水力開発支援協会」は、「全国小水力利用推進協議会」を母体として、2009年1月28日に設立された一般社団法人です。小水力発電所の普及拡大や既存小水力発電所の更新・経営改善を支援することを目的としています。主な活動はコーディネイト業務です。その内容は、1000kW以下の小水力発電設備を設置する事業を行う際、設置場所の選定や技術的、制度的な課題を調査・助言したり、事業主体の形成やファイナンス確保の支援を行います。このように「小水力開発支援協会」は小水力発電所を支援する組織。そして、「全国小水力利用促進協議会」は、小水力に係る人が集まるネットワーク組織です。この両輪で「小水力」の推進・発展・拡大に協力していこうというわけです。ネットワーク組織である「全国小水力利用促進協議会」は、現在、正会員数は法人・個人あわせると174、このうち団体正会員が85団体です。うれしいことに昨年から会員は急増しています。

 

Qでは、海外の情報も含め、「小水力」の現状をお聞かせください。

 

「小水力」が他のエネルギーと違うのは、もっとも古い発電方式。そして、昔の水力発電所ほど規模が小さいことです。この古いということでは、海外も同じで、海外では比較的昔作った発電所が今でも残っており稼働しています。ただ、日本の場合は、つぶすというプロセスが1回発生しています。なぜつぶしたかというと、昔は町営村営の水力発電所がたくさんありましたが、それが戦争終了後に9つの電力会社に集約されました。そこで、100kW、200kWの発電所は手間がかかるだけで、稼働しても赤字になってしまうということで、水力発電所の廃止が続いたのです。このように小水力発電事業は、赤字事業で収支が合わないので発電所の新設もなくなりました。

 

海外をみてみますと、ヨーロッパでも一時期は小水力発電所の新設が廃れたのですが、ドイツの固定価格買取制度が20年程前にスタートして、それ以来、ドイツでは小水力の建設がかなり活発になりました。そして、それに合わせるようにドイツ以外ヨーロッパ各国が固定価格制度を導入し、小水力発電所が新設されています。日本もようやくここにきて、固定価格買取制度を導入したので、これから新しい小水力発電所が数多く建設されると思います。

 

日本での小水力発電所は現在約550ヶ所。RPS法(電気事業による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)がストップした2012年には500ヶ所だったのですが、その後50ヶ所が新設されました。一年間に50ヵ所程度のハイペースで増えていることになります。明らかに固定価格買取制度(FIT)が始まってから増加傾向が高くなっているといえます。エリア的にみると、発電所のキャパシティ、設備容量でいいますと岐阜県がいちばん小水力発電に適しています。また、川の水量が多く、勾配がきついという条件でみてみると、水力発電に適している地域としては富山県です。実際に小水力発電事業の開発が積極的に進行しています。一方、47都道府県のうち、事業用の水力発電所がない県は香川県だけです。香川県は、雨が少なく、山も低いということで小水力発電事業を行うには適さないといえます。

 

(事例紹介)

「地域の活性化」「雇用促進」「観光誘致」そして、「環境問題」などにも貢献した山梨県都留市の小水力発電所

山梨県都留市では、江戸期に川の水を城下町に引き込み、農業用水や生活用水として利用してきた経緯がある。都留市は2004年に市制50周年を記念し、水のまち都留市のシンボルとして市役所庁舎を流れる家中川に小水力発電を設置。「家中川小水力市民発電所」という名称で、水車は「元気くん1号」と命名した。定格出力20kW、直径6mの木製下掛け水車で、得られた電力は市役所内電源として利用し、休日と夜間の余剰電力は売電している。2010年には直径3mの鋼製上掛け水車「元気くん2号」(定格出力19kW)が、2012年には直径1.6mの開放型らせん水車「元気くん3号」(定格出力7.3kW)が発電を開始している。

 

開放型上掛け水車「元気くん2号」 出力19kW 有効落差3,5M 平成22年5月24日稼働

 

 

 

Q.現在、「小水力」が抱えている課題・問題点はなんですか

 

最大のカギは「事業者主体形成」にあると私は思っています。地域に根付いている人たちが地域資源を開発するのがいちばん望ましいというのが私の理念です。水資源というのは、日本にとっては貴重な資源であり、歴史的にも古くから利用されて、最も重要な環境資源として生かされてきました。水資源へのアクセスというのは、新たに開発しようとするときに、すでにその資源へのアクセスを持っている人たちの権利を守らなければいけません。農業水で使ったり、生活用水で使ったり、魚釣り、あるいは環境としてそこに水があること自体に価値があると考える人たちも含めて、そこに住んでいる人たちにまず権利がある、ということです。そこに第3者が入ってきて発電事業を推し進めるという場合、関係者の合意をとらなければいけない、ということがあります。ですから、自分たちで開発することがいちばん望ましい、ということです。そうなると、水力発電所を作ったことがない人たちが作るわけですから、それは簡単なことではない。そこがいちばんの課題、ボトルネックかなと思っています。まず、「地域内事業主体の形成」がいちばん大事なことです。

 

次に地域の人々が一致団結して「事業主体」を形成しても、「ファイナンス(資金)」の問題が出てきます。水力発電所を建設するのに3億、4億かかりますから。地域金融を活用するのが理想的ですが、現時点で地元の金融機関が小水力発電事業に理解をしているか、という問題があります。「小水力」のようなエネルギーインフラの構築には適切な資金調達が不可決なのですが、巨大マネーが国境を越えてさまざまな軋轢を引き起こす時代において、地域経済の観点からも、長期安定的な経済的利益をもたらす小水力エネルギーインフラに対して「地域内資金」を投じていくことが大きな意味を持つと考えています。

 

3つの目の問題として、「エネルギーの管理」ということが挙げられます。「エネルギーの地域管理」という意味では、自給の面でも考えていかなければいけない、ということです。開発するわけですから、当然マイナスの影響も出てくるわけです。なぜ開発しなければいけないのか、どの程度の開発をするべきなのか、ということをしっかりと議論して、では自分たちは電気をどのくらい使っているのかを並行して考えることが大切です。目安としては、自分たちが使っている電気くらいは自分たちが作る水力発電所で賄うということですね。この地域では、いちばんのエネルギー源は小水力だよね、では、どこにつくればいいのか、を議論していくべきですね。一方、小水力発電所をつくると川の水を使うことになるので、エネルギーの無駄使いはやめよう。電気の使い方も考えていこうと「省エネ」にもなります。トータルなエネルギー管理を地域でやっていくことが望ましい、ということです。

 

Q.最後に「小水力」のこれから向かう道、ロードマップをお聞かせください。

 

「小水力」発電事業を全国に普及させるためのポイントは2つです。ひとつは「モデルづくり」、もうひとつが発電所の「数を増やす」ということです。この2つは連動するわけですが、「モデルづくり」には、地域の人たちが事業主体をつくって、そこで得た利益を地域のために活かしていくということ。そういうモデルをつくって、どういうカタチで事業を推し進めていったらいいのか、まだみなさんわからないわけですから「モデル」というカタチでそれを示してあげることがひとつの大きな目標です。そして、「モデル事業」が出来上がりましたら、その「モデル」をベースに小水力発電所が建設可能な地域に発電事業を広めていく。温暖化防止対策のためには再生可能エネルギーが必要なわけですから、小水力の場合、最低ラインの目標でも毎年100ヵ所から150ヵ所程度の小水力発電所を建設していかないと、地球温暖化防止の目標を達成できないのです。それはいまの時点では大変な数、目標ですが、特にポテンシャルの大きい地域で年に5ヵ所程度の小水力発電所を作り出すにはどうしたらいいのか、しかもそれを大手企業が進めるのではなく、地元主体で進めるにはどうしたらいいのかを考えて実行していく。それが私たちの与えられた義務でもあり、要望でもあり、夢でもあります。水力発電は110年以上にわたる土木・電気技術および環境対策技術に立脚した人と自然に優しいエネルギーです。21世紀の水力開発は、地球環境問題の解決等のさまざまな観点から、時代に求められているといっていいと思います。

 

ご協力ありがとうございました。

 

(取材)若生幸成 今淳史