日本のお家芸ともいえる“モノづくり”能力を活かせる風力発電産業。第2回は、世界に追いつき、追い越すために、いまどんな問題点、課題があるのか。また、将来の風力発電産業の未来を日本風力発電協会代表理事・永田哲朗氏が語った熱い言葉を紹介する。
日本風力発電協会代表理事 永田哲朗氏
(略歴)
1950(昭和25)年生まれ、東京大学経済学部経済科卒・シカゴ大学経営大学院卒(MBA)
1974(昭和49)年東京電力株式会社入社、企画部、環境部、事業開発部、国際部等を経た後、2002(平成14)年の株式会社ユーラスエナジーホールディングス発足に伴い代表取締役副社長に就任。2003年から2012年まで代表取締役社長。2012年に相談役。社外では、2004年に一般財団法人新エネルギー財団理事に、2010年には一般社団法人日本風力発電協会の代表理事に就任し、現在に至る。
Q.現状の風力発電に関して課題・問題点をお聞かせください。
2012年7月に「FIT法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)」が施行され、この度2年度目の買取価格が発表されました。風力発電はその間の導入実績が数件しかなく、建設単価もほぼ横ばいであったため、2年目の買取価格は22円/kWhのまま据え置きということになりました。経済性・採算性という意味では従来の水準が維持されたということです。しかし、経済産業省からは、最初の3年間(つまり2014年まで)は風力発電の普及促進に弾みをつけるための優遇措置を織り込んでいるが、その後は見直す可能性が高いと言われています。そういう意味からすると、最初の3年間が正念場ということになるわけです。
この3年間に風力発電事業を集中的に拡大したいという観点からすると、2012年10月から施行された「改正環境影響評価法」、いわゆる「アセス法」は大きな問題です。1万kW以上の風力発電設備がこの「アセス法」の適用対象になったわけですが、従来から騒音防止、自然保護などの観点から環境アセスメントを行う意義については十分承知しています。事実、私たちはNEDOのガイドラインにしたがって自主的な環境アセスを行ってきましたし、会員企業のみならずすべての風力発電事業者にその実施・徹底を図ってきました。しかし、今後は調査から報告書を作成し受理されるまで3年以上かかるという期間の問題と、それに要する費用が1億円以上余分にかかるというコストの問題により風力発電の早期拡大は重い負担を負ったことになります。いま、関係省庁に「アセス法」手続きの簡素化・短縮化をお願いしているところです。
次は「系統連系」の問題です。「系統連系」とは、風力により発電した電気を電力会社に売却するための送電線に接続することです。日本は、陸上風力のポテンシャルのグラフをみていただくとわかるのですが、その多くが北海道、東北に集中しており、地域的に大きな偏りがあります。ところが、電力会社の送電設備容量を見ると、北海道、東北ではポテンシャルに比べ、容量が極端に少ないのです。したがって、風が強いエリアで起こした電気を使用するエリアにどうやって運ぶのかという問題が出てきます。もうひとつの問題として、風の強いところは、人があまり住んでいないところが多く、電力会社としては送電線を敷設する必要がない場所ともいえます。こうした問題を解決するために、国が主導して風の強い特定地域に地域内基幹送電線の新設を進める構想もあります。また、電池等の設置により風力発電の変動を吸収することや、電力会社間の連系容量がもっと拡大されることなども、導入普及進める上での大きな鍵となります。
陸上風力のポテンシャル 出展:平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査からJWPA作成
3つ目の問題として、「規制緩和」の問題です。農地転用に関しては、2009年の農地法改正以来、第1種農地の転用は一切認められておらず、風力発電事業を新規に行うことができない状況にあります。しかし、これまで農地に設置された風力発電施設は、作業道の整備や観光客の誘致、売電収入などの面で地元に貢献しており、農業振興にも一役買っています。風力発電と農業は共存することは充分に可能であり、第1種農地への風車設置を強く要望します。
福島県郡山布引高原風力発電所 岩手県釜石広域ウインドファーム
Q.最後に、中長期的にみた風力発電の展望をお聞かせください。
浮体式洋上風力で、世界のトップランナーに!
(浮体施設をチェーン等で海底に固定。水深50~200m)
風車産業はすでに「兆円」産業でもあるのです。風車生産で日本企業は世界シェア3%で、部品産業も含めると約5,000億円。成長率は、プラス30%。雇用の面でも、日本ではメーカーの直接雇用と部品メーカーを含めると約1万人の雇用が見込まれます。特に風車の立地は地方が多いので、地方経済への貢献度が非常に高いといえます。また、確かに風車メーカーの数は少ないのですが、風車に使われている部品に関しては、日本のメーカーの精度や品質の良さは高い評価を受けています。たとえば、ベアリングについていうと、世界の風車の50%以上で日本の軸受けメーカーの部品が使われているという事実もあります。風車産業は、日本のモノづくりが生かせる非常にすそ野が広い産業といえますし、うまく育てれば将来日本を背負って立てる産業になり得ると思います。
現在試算している数字的な目標をいいますと、2050年における風力の導入目標値は、5,000万KW。内訳は、陸上で2,500万kW、洋上で 2,500万kWです。また、洋上は着床で750万kW、浮体1,750万kW。日本は、海岸線が長い海洋国家ですから、これから洋上風力はとても期待されています。特に、日本の造船技術を生かした浮体式に注目が集まっており、現在研究開発、実証試実験が行われています。日本は陸上では後れをとったものの、洋上では新しい産業として育てていこうという意気込みが官民ともに強く、日本が将来洋上風力発電で世界のトップランナーとなることも夢ではありません。
2050年までに5,000kW導入(需要電力量の10%以上を供給~ロードマップ(JWPA試算)
ありがとうございました。
(聞き手) 若生幸成 今淳史