2013/05/14 ニュース
分散型電源各社の市場戦略①  洋上風力の雄、日本でも受注攻勢へ--シーメンスの風力発電設備

 

 単基出力の大きな風力発電設備は、太陽光発電設備と並び以前から再生可能エネルギーの代表格として見られてきた。反面、日本国内では発電所用に敷地面積が確保できても数基の設置にとどまったり、観光スポット用も兼ねて1基だけ風力発電機を設置するなど、あまり主力電源として普及が進んでこなかったと言えるのではなかろうか。しかし、ここに来て千葉県、福岡県の沖合で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実証試験に乗り出すなど、洋上風力、ひいては風力発電全体を巡る動きが活発化してきた。そして、そこから生まれる事業機会を確実にキャッチアップするべく動き続けている風力発電機メーカーがある。それがシーメンスだ。(今 淳史)
 
 ●再生可能エネルギーの切り札的存在
 1万2300基、総出力約2万MW--昨年12月時点でカウントされた、シーメンスの全世界での納入実績だ。
日本国内では100基強にとどまっているが、これは一時的に補助金が停止されるなど逆風状態にあったことなどが災いした。
 そんな逆風状態も今は終わり、先日はユーラスエナジーが秋田県で建設する秋田港ウィンドファーム向けにSWT-3.0-101のダイレクト・ドライブタイプ(秒速8.5mの風況で年間発電量12.4GWh・写真)の受注を決めている。発電事業者がメーカーを選ぶ時に、何がメーカー選定の決め手になるのかというと、もちろん価格もだが信頼性も大きな要因だ。

 いくら風力発電機の価格が安くても、故障が頻発すれば風力発電機は止まり、それだけ事業者は事業機会を逸してしまう。それを踏まえて、内部収益比率を最大化するメーカーを選ぶのは当然だ。風力発電機の稼働率が信頼性に基づいて上げられるかは大きなファクターであり、今回はその点も評価対象になったのだろう。今回の受注では、一言で言うとシーメンスの持つメーカーとしての「総合力」が決め手になったとも言える。
 もともとシーメンスは総合エネルギー企業だ。375MWと世界最高の発電端出力を誇るSGT5-8000Hガスタービンと、それで構成されるコンバインドサイクル発電プラントなど、発電/エネルギー分野ではデパートのようにそのラインナップは幅広い。
 その中で風力発電設備の全社的な位置付けは、「風力に注力はしているが、火力からシフトしているわけではない」と藤田研一・シーメンス・ジャパン専務執行役員 エナジーセクターリード(写真)は語る。「どこにリソースを集中するかと言えば、それは伸びが期待できる分野だ。再生可能エネルギーはその一つだが、太陽光や地熱など様々な種類がある。風力に集中しているのは、発電設備として大規模化できるためだ。メガソーラーでは1か所当たり数十~100MW程度だが、欧州での洋上風力は1か所で数百MWのものが一般的だ。我々は風力を、再生可能エネルギーの切り札の一つと見ており、その分リソースを集中している」という点が、風力発電に注力する理由だ。
 このように、シーメンスの強みは風力発電設備の中でも洋上風力にある。それは風力発電設備の3つの戦略ターゲットの1つに、洋上風力のグローバルリーダーを標榜していることにも見て取れる。その強みを裏付けるのが、多数の案件で蓄えたノウハウだ。「洋上風力はノウハウも含めた付加価値が高い。これは潮風にさらされることや落雷リスクなど、悪条件が重なるためだ。ある統計によると、我々は6~7割のシェアを欧州で確保している」。洋上風力で、実績からのノウハウが重要であることは、その立地条件から容易に想像できる。その洋上風力の方式としては、着床式と浮体式がある。日本で主流になるのはどちらになるのだろうか。
 「国として考えているのは浮体式だ。ただ浮体式は建設コストがかかる。初期投資の回収が課題でもある。一方で、今の技術では、着床式で深度50メートル程度でも建設できるようになってきている。着床式の可能性をもっと日本でも見直す必要があるのではないか。現に欧州では完全に着床式が主流だ。北海は遠浅で、風車が建て易い。それに、英国は北海油田を保有している関係で、海洋土木のノウハウを蓄積している。それで主流になっていったのだろう」と、藤田氏は提言する。
 大出力の風力発電機が林立している印象の欧州。日本とは、条件面などで何が違っているのか。「絶対的に違う要素は環境アセスメントの期間の長さだ。日本は非常に時間がかかる。もう一つは権利関係の処理だ。英国などでは権利関係が非常にシンプルだが、日本は漁業権などが複雑に絡み合っている。また、環境アセスメントの有無にかかわらず、良識的な発電事業者は住民向け説明会を怠らなかった。最近発表になった案件でも、最初の構想から10年近くかかっているケースもある」と、具体化・着手までの期間の長さがネックになっているようだ。現在、山形県酒田市で自治体主導の案件が説明会の段階で停滞しているのも、そこに理由がありそうだ。
 では今後期待できるという国内で、期待できる地域はどこか。藤田氏は、「我々はサプライヤーなので場所は選べないが、風況では東北地方が活況だ。このほか九州の一部や北海道などだろう。着工済み案件では、80%近くが東北と九州になっているはずだ」とする。
 
●大出力化と信頼性向上を両立-今後の開発トレンド
 シーメンスの風力発電機ラインナップは幅広い。
 同社の場合は、複数の製品プラットフォームがあり、さらにそのプラットフォームの中にそれぞれの機種がラインナップされている点が特長だ。それぞれの機種は製造を終了したMWクラス、現行のマルチMWクラス、その改良型であるマルチMWダイレクト・ドライブクラスとしても分類される。このダイレクト・ドライブはギアボックスを廃し、永久磁石発電機を使用している。複雑な構成の部品が少ないためメンテナンス性が向上した点がセールスポイントだ。
 そのプラットフォームはSWT-2.3、SWT-3.0、SWT-3.6など数種に分かれる。ベストセラーモデルのSWT-2.3-93の場合、年間の単基出力は9.9GWhにも上る。相当大面積のメガソーラーでない限り、太陽光発電設備では太刀打ちできない出力規模だ。これが新標準機に位置付けられているSWT-3.6-120では、単機の年間発電量は15.3GWhとちょっとしたPPSの発電所並みだ。このまま大出力化が進めば、国内でも火力発電所に匹敵するキャパシティを持つ風力発電所も誕生するかもしれない。今後の開発トレンドはどうなっていくのだろうか。
 「一つは、洋上風力を前提に単機当たりの大出力化が進むだろう。弊社でも6MWのモデルがあるし、競合他社にも7.2MWのモデルがある。洋上を前提にするとどうしても大出力化していかざるを得ない。もう一つの流れは信頼性の追求だ。これはダイレクト・ドライブタイプが一つの象徴的な製品だと言える。風力発電機は複雑なメカニズムの集合体で、回転部分が多ければ多いほどトラブルも多くなる。ダイレクト・ドライブで駆動部分を直結してしまえば、回転部分が少なくなり、その分だけトラブルが軽減されるという発想の製品だ。
 また、洋上ではメンテナンスが陸上に比べ難しい。だからなるべくメンテナンスフリーに近い形が理想だ。さらに、プラントのモニタリングをリモートで監視し、何らかの予兆が見られたら即刻対処するという形が考えられる」。太陽光発電設備でも、最近になって事業者にリモート監視サービスを提供する企業が現れ始めたが、シーメンスは既にその発想で日本の先を行っていたようだ。
 
 ●風力発電機の半分は洋上風力に移行
 日本国内では、NEDOがようやく洋上風力のパイロットプラントを設置した。日本で洋上風力のマーケットが形になるのはいつだろうか。藤田氏の見立てでは、「平成28~平成29年以降、案件がかなり具体化すると見通している。比率的にも平成32年以降、出力ベースでおそらく半分程度は洋上風力が占めるようになっているだろう」とのことだ。
 いまだ発展途上の国内風力マーケットだが、シーメンスは日本のマーケットをどう分析しているのか。藤田氏によると「再生可能エネルギー全般に言えることだが、日本はグローバルの流れから2、3年は遅れていると言わざるを得ない。我々は『再エネ冬の時代』と呼んでいるが、補助金制度がいったん停止したため、市場が停滞した時期があった。着工件数の伸びも、昨年~今年に停滞のタイムラグがあったことが確認できる。ただ、昨年7月にFIT制度が発足し、今後はその中に洋上風力も含められるだろうと期待している。ただ、風力発電所は案件の具体化に時間がかかる。FIT制度の条件ではないものの、大型工事のため環境アセスメントは行わなければならない。そこでどうしても時間がかかる」。比較的設置が手軽なこともあり、ブーム化している太陽光発電設備に比べると多少ハンディがあるが、藤田氏は「最終的には、今から3年後くらいにマーケットが拡大するだろう」と予測している。
 常に良質の案件をキャッチアップし、特段シェアの目標はないものの、平成29~30年ごろには1GW程度の累計受注は確保したいという。洋上では1つの風力発電所に、何100基の風力発電機が設置されているが、欧州のように多数の風力発電機で構成する風力発電所が国内で実現できるかというと、藤田氏は多少懐疑的だ。「プラントサイトは当面かなり限定的になるだろう」と見ている。「港湾整備の関係など、かなり環境が整わないと多数の風力発電機は立てられないが、その環境はこれから次第に整ってくるだろう。その条件の一つとしても利権の問題をクリアしなければならない」
 藤田氏の話から、今後は日本でも風力発電所が陸上から洋上へプラントサイトをシフトしていくのはほぼ確実なようだ。まだ不確定要素は多いが、発電出力や周辺住民へのベネフィットなどの面で洋上風力には未来があると言えるだろう。そして、洋上風力の重要性と可能性に我々電力消費者が気づいたとき、いつの間にかシーメンスは日本でもマーケットリーダーとして風力発電機サプライヤーの先頭を走っているかもしれない。