(海外エネルギー自立地域)
自然エネルギー100%アイランド、デンマークの「ロラン島」
北欧の国・デンマークで4番目に大きい島、「ロラン島」
まっ平らなハート形の島は“パンケーキ”島とも呼ばれている。
美しい自然にあふれ、豊かな土地で農業が盛んな世界最先端の“田舎”が、
いま再生可能エネルギーのモデル社会として、世界で注目されている。
子どもたちの笑顔あふれる未来のために、
再生可能エネルギーの普及・啓発に取り組んでいる
NPO法人・そらべあ基金が、その100%自然エネルギーの島「ロラン島」に在住している
ジャーナリスト、ニールセン北村さんを招いて
「第1回そらべあ再生可能エネルギーセミナー」を開催した。
ジャーナリスト・ニールセン北村さんが語った
「再生可能エネルギーとまちづくり」の成功事例を紹介する。
お荷物自治体から先進環境自治体になった理由
「ロラン」島は、デンマークの南端に位置し、島の面積は沖縄本島とほぼ同じ、
人口は65,000人、平坦な島で一面に畑が続く農村地帯でもある。
そんな島に、陸上だけでなく、洋上にも「洋上風力発電パーク」が作られており、
合わせると風力発電風車が約600基も設置されている。
では、なぜ「ロラン」島が自然エネルギー100%の先進環境自治体になったのだろうか。
今から39年前の1973年に、世界的なオイルショックがあり、デンマークでは冬でも暖房がない状態が起きた。
そして、電力を作るためには、石油に頼らない原子力発電所を作るということになり、
冷却水となる海水の利用に便利な土地として「ロラン島」が原子力発電所の計画地候補となった。
そこに、市民の有志が「原発に待った」をかけ、3年間、考える時間が欲しいと要望し、認められた。
原発とエネルギーについての勉強会も開催され、市民ひとりひとりが「原発誘致」を考え、論議を尽くした。
その結果、市民の大多数が「原発建設反対」に回り、1985年に計画は中止。
原発建設に反対した「ロラン」島の人々は、自ら積極的に自然エネルギーの活用に取り組むことに努めることになり、
発電された電気を電力会社が定額で買い取る保証(デンマークでは無期限)、
償却ができて採算が合う価格の設定などの要求をするとともに、
協同組合方式で出資しあって風車を建設する運動を進めていった。
原発建設から自然エネルギー100%の島へ
しかし、風車を作るにはさまざまな壁があった。風車作りを一括で担える大きな技術会社はない。
そこで、考えられたのが「ハーモニー式風力発電機」。
これは、複数の地元中小企業が得意分野をそれぞれ活かして、部品を作り、それを組み合わせるというもの。
羽根はグラスファイバーの船体を作っていた会社、発電機はトラクターを生産していた会社など。
トラクター生産会社は、もともと農民と深い関係にあった会社なので、農民の理解が得やすい、というメリットも生じた。
農機具メーカーは、古くから農家の人との付き合いがあり、土地に余裕のある農家に風車を立ててもらう依頼をした。
この「ハーモニー風力発電機」のアイデアを提案したのは、経済学者・メゴー氏、後に「風力発電の父」といわれている。
そして、これをきっかけに町の産業は活性化の道を歩み始めた。
失業率20%以上から7%に回復~風を生かしたまちづくり
80年代は、「ロラン島」のメイン産業であった造船業が廃れ、失業率が20%を超えていた。
風力発電事業や自然エネルギーを使って製品を作りたい、
という大手企業などを誘致することにも成功して、雇用は徐々に回復し、失業率は7%まで下がった。
いま、風車が使う部品は1万種類を超えている。さらに、風車が増えることで、
メンテナンス産業が興り、多くの技術者が必要となってくる。
「ロラン島」では、メンテナンス技術養成所もあり、「職を作る」最前線の役割を担っている。
現在、再生可能エネルギーを生かしたまちづくりの成功モデルとして、
「ロラン島」には世界中の企業や政府が見学に訪れている。
エコツーリズムのビジネスも花開きつつある。見学施設のひとつである、
北西部のオンセヴィ気候パークは、1991年に完成した世界初の洋上風力発電所。
沖合では波力発電の実験や魚介類の養殖など一石二鳥の発電所を目指して 研究中。
実は、この地は、1970年代に原発の建設計画が持ち上がった場所。
市民が原発に反対して勝ち取った思い出の場所が、いま、まさに
「エネルギーシフトは可能である」というサクセスストーリーが実感できる絶好の見学スポットとなっている。
(若生幸成)
※ニールセン北村朋子著
「ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク発、100% 自然エネルギーの島」が
野草社から出版されています。