2013/04/05 ニュース
地中熱協会笹田理事長に聞く(下)~地中熱コミュニティ構想、性能基準、技術者認定~

東日本大震災以降、日本のエネルギーは再生可能エネルギーの活用に話題が集約されている。その中で「地中熱」は“省エネ・節電”の切り札として注目が集まっている。NPO法人「地中熱利用促進協会」の理事長・笹田政克氏へのインタビュー第3回は、「地中熱」を活用したコミュニティ構想、「性能基準」や「技術者認定」など現在検討中の施策などを紹介する。

 

NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克(ささだ まさかつ)氏

プロフィール   

1948年東京生まれ 1977年東京教育大学大学院理学研究科博士課程修了 理学博士。同年通商産業省地質調査所に入所 地殻熱探査課長 地殻熱部長 独立行政法人産業技術総合研究所深部地質環境研究センター長を経て2007年に退職。在職中は主に地熱エネルギーの研究に従事。2008年千代田区にある一番町笹田ビルに地中熱ヒートポンプシステムを導入。毎月見学会を開催し、これまでに1500名の方が見学。現在の役職は、他に産業技術総合研究所研究顧問・名誉リサーチャー、芝浦工業大学非常勤講師 応用地質株式会社顧問(社外)

 

 

Q.3.11以降、再生可能エネルギーが注目されていますね。「地中熱」は、その中でどのようなポジショニング、役割が期待されていると考えていますか

 

「地中熱」利用のヒートポンプシステムは、「節電」に最も効果があります。大量に電気を消費する大型の量販店などには、特に夏のピーク電力対応、ということで訴求しています。キロワットを如何に下げるかの世界ですね。夏のピーク時、暑いときに冷房の電力消費量が大きく上がってきます。通常のエアコンでは外気に排熱しなければならないので、気温が上がるほど排熱に必要な温度が上がります。つまり、エアコンの仕事量が増え、消費電力のピークをつくってしまいます。ところが「地中熱」は、排熱する場所の温度が低いので消費電力は少なくて済むわけで、「地中熱」を利用した場合とその差はものすごく大きくなるわけです。

 

業務用の「地中熱」ヒートポンプと空冷エアコンの実績値を比較してみると、空調を「地中熱」にした場合、夏の暑いさなかでは、少なく見積もっても消費電力は3分の1程度削減できる見込みです。また、「地中熱」利用は、冷房排熱を外気に放熱しませんから“ヒートアイランド”対策にも有効です。外気が高温にならない分だけ、冷房の電力消費を抑えることができますので、これも節電に加算されます。日本地熱学会では「地中熱」利用が普及した際の“ヒートアイランド”現象抑制効果も考慮すると、空冷エアコン利用時と比べ、冷房時の消費電力は半分程度になると試算しています。

 

 

 

 

 

 

 

空気熱空調と地中熱空調の消費電力比較(JFE鋼管株式会社資料)

 

 

実際の数字で見てみましょう。東電管内の真夏の電力需要は、いちばん暑いときで6000万kWといわれています。このうち業務用が2500万kWで、その中で空調が1000万kWあります。「地中熱」利用ヒートポンプの導入で、“ヒートアイランド”抑制効果による電力削減を加えると、東電管内の業務用だけでも500万kW程度の節電効果が期待されます。これに家庭用の空調も考慮し全国規模で予測してみると、東電の電力供給は全国の約3割ですから、日本全体で「地中熱」ヒートポンプの導入による電力ピーク時の節電効果は1000万kWを大きく超える規模になります。

 

    東京電力管内業務部門全体の機器別電力需要(資源エネルギー庁)

 

Q.震災復興に向けた提言「地中熱利用のコミュニティ構想」というのがありますが、その構想についてお聞かせください

 

「地中熱利用コミュニティ構想」とは、「地中熱」を共通インフラとして活用し、それぞれの施設の冷暖房・給湯・融雪の熱エネルギーを賄っていくという構想です。なお、「地中熱」は電気をつくることができないので、「地中熱」に太陽光や風力、小水力発電など、地域特性や社会構造を考えてベストな組み合わせを考え、環境にも優しい街づくりができればよいと考えています。例えば、街の中心にある公園に「地中熱」を取り出す熱交換器を埋設し、戸建てや集合住宅、病院、コンビニ、消防署、学校などの冷暖房に活用する。冬季には、路面の融雪にも利用する。「地中熱」システムを共有することでスケールメリットが生まれ、初期コストの低減も可能になります。実は、このコミュニティ構想、未来環境都市に選ばれた北九州市の新日鉄住金エンジニアリングの施設などで進んでいるのです。ぜひ、早期実現させたいですね。

 

                      地中熱利用のコミュニティ構想(地中熱利用促進協会)

 

 

Q.協会が今後取り組もうとしている活動・施策があればお聞かせください

 

「地中熱」の普及、認知度向上につながる施策として、これから重要となる活動について2つお話させていただきます。

 

まず、一つ目は「ヒートポンプの性能基準」です。家庭用エアコンにはJIS規格がありますが、「地中熱」には統一規格がありません。性能評価をきちんとして規格や基準をつくっていく。それが消費者への安心・安全につながっていく、と考えています。昨年「低炭素に向けた住まいと住まい方の推進に関する工程表」が国土交通省・経済産業省・環境省の3省から発表されました。実はその中で、省エネ法を改正し住宅・建物のエネルギー設備が一定の省エネ基準に適合しない場合、建築できない仕組みを作ろうとしています。改正省エネ法では、建物を新築する場合、それぞれのエネルギー設備は、それぞれの性能基準に従ってエネルギー計算がされることになります。「地中熱」利用ヒートポンプシステムもエネルギー計算を簡便に行える性能基準をもたないと、低炭素社会に向かう住宅・建物の新しい流れに取り残されてしまいます。今年は、具体的な性能基準づくりに向けて議論を進めていきます。

 

二つ目は、「地中熱」の技術者認定です。「地中熱」ヒートポンプシステムの品質を確保するため、協会ではこれまで施工管理マニュアルの作成や年に基礎講座・設計講座・施工講座合計4回の講習会で技術者の研修を行っています。この活動をさらに一歩押し進め、技術者認定を行うことを検討しています。そして、まずは、施工管理技術者の認定から始めることで、関連団体などと協議に入っています。このような施策を推進し、環境保全と消費者保護を進めていくことで普及を推進していきたいと思っています。

 

Q.最後になりましたが、理事長の「地中熱」に対する想い、夢をお聞かせください

 

昨年「地中熱」を利用したヒートポンプシステムの設置件数が累計で1000件に達しました。次の目標は1万件です。その目標達成に向けて、協会の組織体制強化を図っていきたいと考えています。昨年の夏から「将来の協会の在り方を検討するタスクフォース」が組織運営についての議論をしてきました。今年は強力な執行部体制をつくるとともに、事務局の強化などを実施して、「地中熱」の普及、認知促進に向けた活動をひとまわり大きなものにしていきたいと考えています。

 

 

ありがとうございました。

 

(聞き手)若生幸成 今淳史