2013/04/04 ニュース
地中熱協会笹田理事長に聞く(中)~「コスト高」「製品性能、製品へのアクセス」など現状の課題~

「地中熱」普及を目的に活動しているNPO法人「地中熱利用促進協会」。協会の理事長である笹田政克氏のインタビュー。その第2回は、日本で「地中熱」が普及するために現状の問題点・課題、および新施設への導入事例などを紹介する。

 

NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克(ささだ まさかつ)氏

プロフィール   

1948年東京生まれ 1977年東京教育大学大学院理学研究科博士課程修了 理学博士。同年通商産業省地質調査所に入所 地殻熱探査課長 地殻熱部長 独立行政法人産業技術総合研究所深部地質環境研究センター長を経て2007年に退職。在職中は主に地熱エネルギーの研究に従事。2008年千代田区にある一番町笹田ビルに地中熱ヒートポンプシステムを導入。毎月見学会を開催し、これまでに1500名の方が見学。現在の役職は、他に産業技術総合研究所研究顧問・名誉リサーチャー、芝浦工業大学非常勤講師 応用地質株式会社顧問(社外)

 

 

 

Q.は、日本で「地中熱」の普及を推進する上での現状の課題・問題点は

 

課題や問題点はたくさんあります。まず、「再生可能エネルギー熱利用の本格的な政策」。補助金の政策は充実してきていますが、再生可能エネルギーの普及拡大ということを考えたとき、“電力”については『FIT』という全量買取制度があるのですが、“熱”に関しては、本格的に推進していこうという政策がないのです。今後政府は“熱”エネルギーについても、どうやって“普及”拡大を図っていくか基本的な政策を作成してほしいと強く願います。次に「地方自治体の政策」です。青森県や横浜市泉区のように熱心に取り組まれている地方自治体はまだわずかで、地方自治体の「地中熱」への理解不足が挙げられます。地方自治体の担当者が「地中熱」を理解していただくことで、市民や事業者との懸け橋になっていただき、省エネ性、環境性に優れた「地中熱」の普及を進めていただきたいと考えています。

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横浜市泉区でWEB公開している「地中熱」利用の冊子

 

 

次に「コストの問題」です。いま、いちばんの問題はコストが高い、ということ。それが「地中熱」普及拡大のネックになっています。いまは民間事業者の場合、3分の1補助金が出るようになったのですが、大きな案件では残りの3分の2を金融機関等から借りなくてはいけない。でも、金融機関がまだ「地中熱」に対して理解不足なところがあり、地元の銀行に融資の相談に行っても理解してもらえない、というのが現状です。政府系金融機関である政策金融公庫のメニューの中に「地中熱」という項目がやっと入ったというところです。

 

少し視点を変えてみると「製品へのアクセス」という問題があります。「地中熱」の主な用途というのは“冷暖房”なのですが、家庭の“冷暖房”システムといえばエアコンを活用したものですよね。エアコンは、家電量販店に行けばたくさんの機種が陳列されており、消費者はそこから選んで購入できるのですが、「地中熱」を活用した冷暖房システムは、製品にアクセスする術が少ない。興味がある方は協会のホームページなどを見て、それから業者に問い合わせをする方が多いのです。「製品へのアクセス」を容易にすることも必要だと考えています。

 

そして「製品の性能向上」という課題があります。家庭用エアコンは非常に性能がいいですよね。量産できるので開発にかけた投資が回収できるのですが、「地中熱」用の機器は生産台数が少ないため、なかなか大きな投資をして技術開発することができない。日本の技術力をもってすればエアコン機器同様の技術レベルにはすぐ届くはずです。通常のエアコンと比較して、もし同じ条件であれば「地中熱」の方が省エネ性も高く、環境にも優しいなど、多くのメリットがあり、優位な状況にあるので、さらに機器の高効率化を進めてほしいと思っています。これからのメーカーの取り組みに期待しているところです。

 

Q.話は変わりますが、昨年5月開業東京スカイツリー地区で「地中熱」が導入され、大きな話題に。今後の予定を含め「地中熱」を導入した新施設は

 

3つの施設に注目してほしいと思います。ビルでは、東京駅前のJPタワーです。東京中央郵便局の建物が一部残っており、入口を入ると、KITTEの愛称をもつ大きな商業施設があります。実は、その空調に「地中熱」が使われており、吹抜けとなっている広いアトリウムの床から柔らかな風が吹き出しています。便利な場所なので、ぜひ「地中熱」ヒートポンプによる空調を体感してほしいと思っています。次に、小田急線東北沢駅です。小田急線は東北沢駅と下北沢駅、世田谷代田駅の3駅をこの3月に地下化しましたが、そのトンネルに地中熱交換器が設置され、東北沢駅の空調システムとして「地中熱」が利用されています。地下駅としては“初めて”ということになります。そして、公共建築物としては、ぜひ注目してほしいのが東日本大震災の被災地に再建する宮城県石巻港湾合同庁舎です。公共建築物の最先端を行く“ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)”にすべく、最新の再エネ・省エネ設備の導入を予定しています。「地中熱」利用ヒートポンプがそれらの設備のひとつとして選ばれました。協会としては、このモデル事業が円滑に進むよう、一昨年から技術的なサポートを続けています。国の建物に「地中熱」利用ヒートポンプが導入されることは、「地中熱」利用促進にとって大きな力となります。


    東京駅前KITTEの「地中熱」利用。

    床の8角形の部分が空調の吹き出し口(撮影:笹田政克)

 

   官庁施設のゼロエネルギー化モデル事業(国土交通省)

 

インタビュー掲載最終回の明日(4月5日)は、「地中熱」を活用したコミュニティ構想、「性能基準」や「技術者認定」など現在検討中の施策などを紹介する。

 

(聞き手) 若生幸成 今淳史