2013/04/03 ニュース
地中熱協会笹田理事長に聞く(上)~「省エネ」「環境性」に秀でた地中熱普及拡大に向けて~

昨年5月東京スカイツリー地区の冷暖房に「地中熱」を利用した空調システムが採用されたこともあり、いま、「地中熱」が注目されている。地中の温度は年間を通じて“安定”しており、夏は地上よりも冷たく、冬温かい。この温度差を利用して空調を効率よく行うのが「地中熱」ヒートポンプである。この「地中熱」利用の普及を目的に活動を続けているのがNPO法人「地中熱利用促進協会」である。今回、協会の理事長である笹田政克氏から「地中熱」の現状、活動等を聞いた。インタビューは3回シリーズで紹介。第1回は、「地中熱」とは、「地中熱」普及の現状等を紹介する。

 

NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克(ささだ まさかつ)氏

プロフィール     

1948年東京生まれ
1977年東京教育大学大学院理学研究科博士課程修了 理学博士。
同年 通商産業省地質調査所に入所 地殻熱探査課長 地殻熱部長
独立行政法人産業技術総合研究所深部地質環境研究センター長を経て
2007年に退職。在職中は 主に地熱エネルギーの研究に従事。
2008年千代田区にある一番町笹田ビルに
地中熱ヒートポンプシステムを導入。
毎月見学会を開催し、これまでに1500 名の方が見学。
現在の役職は、他に産業技術総合研究所研究顧問・名誉リサーチャー、
芝浦工業大学非常勤講師 応用地質株式会社顧問(社外)

 

Q. はじめに理事長になったいきさつをお聞かせいただけますか

 

プロフィールにあるように、30年ほど地熱発電に関わることをしていました。産業技術総合研究所、その前は通産省の地質調査所にいました。退職後、自分が住んでいる千代田区一番町のビル空調を地中熱ヒートポンプシステムにするなど、ささやかながら地中熱に関わっており、常々、地中熱利用は「省エネ」と「環境性」に優れているのに、消費者の方は「地中熱」の良さをご存知ない。また、社会からの評価が低すぎる、と思っていました。そんなときに、たまたまNPO法人の理事長になってほしいという依頼がありました。それなら“普及”の仕事をお手伝いしようということで理事長を引き受けました。

 

Q.理事長が「地中熱」に惚れ込んだ理由をお聞かせください

 

やはり「省エネ」と「環境性」に優れていることです。現在設置されているシステムでも、このことは十分実証されているのですが、まだほんとうの実力は出ていないと思っています。さらに大きな可能性を秘めていることも大きな魅力です。

 

Q.消費者の方は「地熱」と「地中熱」の違いがわからないですよね

 

そうですね。講演やセミナーなどで、まずお話するのが「地熱」と「地中熱」の違いです。「地熱」は地球が持っているエネルギー、「地中熱」も“地熱の一部”ではあるのですが、「地熱」とは少し違う意味合いをもっています。消費者の皆さんは「地熱」というと、温泉や火山を連想して『温度が高い』とイメージする人が多いのですが、「地中熱」は温度が高いということではなくて『温度が一定である』という性質を利用するものなのです。わかりやすいのは、井戸水を考えてください。地中からくみ上げた井戸の水は、年間通してほぼ同じ温度ですが、冬温かく、夏は冷たいですよね。「地中熱」は温度が一定ですので、冬は温熱が、夏は冷熱が使えるわけです。

 

 

         気温と地中温度の年変化(地中熱利用促進協会)

 

Q.資料を読むと「地中熱」利用には100mボーリングをすると書いてありますが

 

すべて100mボーリングする必要はありません。地中の温度は10m程度で一定になります。10mより浅くても、温度が多少変わりますが使えないことはありません。例えば、浅いところでは地中1.5m位のところでも、熱交換器を横置きにすれば、「地中熱」を利用することができます。その場合は敷地面積を広く取ることになるので、狭い日本では難しいところがあります。ですから、一様に100mボーリングする必要はないのですが、一つの目安として100mボーリングする。また、熱を取り入れる高密度ポリスチレン製のパイプが総長100mまでのものが多いので、切のいい100mという数字を出しているのです。

 

        季節ごとの地中温度(地中熱利用促進協会

 

Q.日本で、ここ数年「地中熱ヒートポンプシステム」の普及が進んでいますが、その理由は何ですか

 

いちばん大きいのは、政府の認知と補助金ですね。2010年にエネルギー基本計画に「地中熱」という文言が初めて入りました。そして、2011年から経産省が「地中熱ヒートポンプシステム」設置に補助金を付けるようになったのです。“新エネルギー”と言葉が使われていた頃は「地中熱」は認知されていなかったのですが、経産省が“新エネルギー”という言葉を使わなくなり、“再生可能エネルギー”という言葉で統一され始めて、やっと“再生可能エネルギー”のひとつとして「地中熱」が認められました。

 

また、2011年は“東日本大震災”が起こり、世の中全般が“再生可能エネルギー”に対し強い関心が向けられ、「地中熱」の活用にも関心が高まってきたのも、設置件数が急激に増加した原因でもあります。

      地中熱利用ヒートポンプシステムの設置件数(環境省)

 

Q.しかし普及が進んできたといっても、先進国の米国や中国には遠く及ばない。その原因・理由は何でしょう。

 

政府の認知が遅れたことがいちばん大きいでしょうね。結局“政策”なんですよ。米国にしても中国にしても政策面のバックアップがかなり大きいということです。米国の場合、今はないかもしれませんが、電力会社からの支援がありました。電力自由化以前、90年代の初めくらいまでは電気料金で助成してくれたようです。最近は、優遇税制ということで、工事費の3割程度を税金でペイバックするという政府の支援がなされているようです。それと米国で「地中熱」が普及している理由は、政府の認知・支援の他にもう一つ理由があります。それは、米国にも「地中熱」普及促進のための団体があり、そこが技術者の養成とかさまざまな活動を行っています。その団体の活動が米国での「地中熱」普及拡大に貢献していると考えています。これからはそういう海外の団体との連携も必要だと私は考えています。中国の場合は「地中熱」に限らず「太陽光」にしてもすべてが“国策”で動きますから。とにかく、日本で“普及”が遅れたのは政府の認知が遅れた、その一言ですね。

       各国の地中熱設備容量(地中熱利用促進協会)

 

しかし、日本でも法律にはないのですが、政策のひとつとして「地中熱」が入り、政府の助成策も拡大しています。2011年からできている経産省の熱利用補助金の他に2013年度は2つの新しい助成制度が始まります。ひとつは、経産省の再生可能エネルギー熱利用高度複合システム実証事業、もうひとつが環境省の先進的地中熱利用ヒートポンプ導入促進事業です。助成策も拡大してきており、私たち協会も“普及”拡大に今年はさらに力をいれたいと思っています。

 

第2回の明日(4月4日)は、日本で「地中熱」が普及するために現状の問題点・課題、および新施設への導入事例などを紹介する。

 

(聞き手) 若生幸成 今淳史