2013/03/27 ニュース
「自治体型小水力発電事業の普及可能性とその展望」~明大大森教授ゼミ論文

明治大学大森正之ゼミナールで「環境経済学」を学んでいる保井美聡氏・古橋祐美氏・川合陽子氏が共同で、「自治体型小水力発電事業の普及可能性とその展望」という論文をまとめ公表した。この論文は、小水力発電設備の動向や自治体が設備を運営する場合の手法などについて論じたもので、主に出力1000kWの設備について自治体の事例4例も挙げながら考察している。

 

この論文によると、小水力発電は建設時、運転時ともにほぼCO2を排出せず、自然環境への負荷が小さい利点がある。自治体が導入する場合、税制面で優遇され、水利権の取得も容易。公債や市民公募債の発行など、幅広い資金調達が可能。土地改良区型では、事業主体が水利権所有者をまとめる団体のため、水利権取得の手続きがいらず、利益を農業の発展に還元させることができる。NPO法人が事業主体の場合、地元の合意を得られやすいほか、株式会社・水道局パートナーシップ型では水利権の取得が不要で、水道局は安価なクリーンエネルギーを使用できるようになる。経済面で考慮した場合、自治体型、土地改良区型、株式会社・水道局パートナーシップ型で利点がある、としている。

 

以下、論文の「はじめに」から一部を紹介する。 

 

持続可能な電力供給が可能である再生可能エネルギーに注目が集まっている。中でも私たちは、CO2排出量が最も尐なく、安定した電力供給が見込める小水力発電に着目した。

国としても、小水力発電事業の導入促進のため、主な障壁となる高額な初期投資やポテンシャル調査等に対し、様々な助成制度に乗り出している。その一方で、地域のエネルギーである水源を活用することで得られた収益が、事業主体に独占されてしまう懸念もある。このように、地域への利益還元が行いやすいという小水力発電の特性が十分に活かし切れていない現状に疑問を感じ、また、戦前には周辺地域の電力を賄っていた小水力発電事業とその地域ネットワークに改めて着目する意味を込めて、本稿を執筆するに至った。

本稿の構成は、まず第1章で小水力発電と小水力発電事業の概要を説明し、続く第2章では、文献や取材を基に小水力発電事業を5つの導入主体に分類する。そして、その類型の典型的な事業例として、実際に私たちが足を運んだ事業主体を中心に紹介し、それぞれの特徴を比較する中で、自治体型の小水力発電事業に優位性を見出す。続く第3章では、自治体型小水力発電の成立条件式を立て、発電単価を3つに場合分けする。発電単価に見合った事業モデルをそれぞれのパターンにおいて提案し、さらに中長期的な時間軸で、その事業モデルを展望する。最後の第4章では、実際に自治体が小水力発電事業を導入する際に障壁になるであろう、高額な初期投資に対する解決策を提案する。自治体が関与することで、税制面での優遇を受けるとともに、市民団体などを中心にSPCを設立することで、独立性を高め事業のノウハウの蓄積を行いやすくする。また、SPC 設立の際には、採算性の見通し、出資企業や団体への利益還元策を明確にすることで、信頼性の高い事業を構築する。以上により、これまで不可能であった小水力発電事業に対する低利融資の可能性を高め、資金調達時のリスクヘッジを可能にするための道筋を示すことができると考えた。

 

なお、同論文は、大森正之ゼミHP(http://www.kisc.meiji.ac.jp/~omorizem/faq.html)

第13期共同論文(2012年度)で閲覧することができる。