3.11大震災による未曾有の原発事故で、日本のエネルギー政策は抜本的な見直しを迫られた。そして、電力不足対策として、「分散型エネルギー」へのニーズが急速に高まり、まさに昨年2012年は、「分散型エネルギー元年」とも呼べる年となった。では、今後日本のエネルギー事情はどこへ向かうのか。また、「持続可能なエネルギー社会」を築くために何をすればいいのか。エネルギー岐路に立つ日本がいま問い直すべきエネルギーと人、そして社会の在り方を考えるシンポジウムが昨年12月東京・国連大学にて開催された。その講演の一部を紹介する。
公益財団法人自然エネルギー財団主催のシンポジウムは、2012年12月8日(土)、カナダの著名な生物学者・環境運動家のデヴィッド・スズキ博士と、写真家・作家の石川直樹氏を招いて、東京の国連大学ウ・タント国際会議場で開催された。講演の概要は以下の通りである。
基本講演(1)
デヴィッド・スズキ(デヴィッド・スズキ基金共同設立者、自然エネルギー財団理事)
今後数年間の行動によって、人類滅亡の可否が決まるーマーティン・リース(英国王室天文官)によれば、人類が今世紀末までに生き延びられるかどうかは五分五分である。人類は増加を続け、ついに地球上でもっとも数の多い哺乳類になるに至った。これは人類のエコロジカル・フットプリントが大きくなり、地球の科学的、物理的、生物学的特性を変える自然の力のひとつになったことを意味する。
生物多様性や気候変動等に関する国際合意は失敗に終わることが多いが、その原因は人類の世界観や環境との関係に対する考え方にある。1960年代に始まった環境保全活動は、当初成功を収めたが、こうした思考方法の転換には失敗した。
人間は、自らこそが世界を掌握しており、すべてのものは人間が好きなように使うために存在していると今でも考えているのではないか。政府、企業、その他のステークホルダーは、自然法則に支配される世界の中で生きていることを自覚し、済んだ空気、安全な水、健全な土壌、環境に優しいエネルギー、生物多様性の実現が最優先課題である ことを認めるところから始めなければならない。
基本講演(2)
石川直樹(写真家)
写真撮影のために訪れた国々でさまざまな人と出会い、先住民と非先住民の自然に対する認識が違うことを知った。ネパールのシェルパ族は山を非常に神聖なものと考えているが、日本や欧州などシェルパ族以外の人々は山登りや山頂への到達を「山の征服」と表現する。
地球温暖化を引き起こしたのは先進工業国にほかならないが、その被害を受けるのは海の近くに住む人々である。自然に接しながら暮らす人々が現代技術を取り入れないのは時代遅れと見られがちだが、彼らは自分の意思でそうしているのだ。
例えば、北極圏近くの町イルリサットに住む人々は、スノーモービルではなく、あくまでも犬ぞりを使う。スノーモービルは大雪原の真ん中で壊れたら直せないが、犬ぞりなら犬が頑張ってくれる。厳しい自然と共に生きる人々は、そのような選択をするのだ。
なお、基本講演後に自然エネルギー財団副理事長であり、国連環境計画 金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹次郎氏から「持続可能なエネルギー社会を築くために」、(1)世界と「危機感」を、どう共有するか? (2)「総力戦」の体制を、どう構築するか? (3)日本の脱落を、どう防ぐか? (4)「倫理的選択」を、どう実現するか?という4つの問題提起がなされた。
■当日のシンポジウムは、自然エネルギー財団HPから見ることができます。
http://jref.or.jp/action/event_20121208.html