12月13日~15日に開催された「エコプロダクツ2012」で、武蔵野大学環境学部「明石ゼミ」とのコラボレーションで「分散型エネルギー」最新の海外事例12を紹介した。
武蔵野大学環境学部の「明石ゼミ」
明石ゼミでは、社会、経済、技術など様々な側面からエネルギー・環境問題の調査・研究を行っている。本年度は、日本の中長期的なエネルギー政策について、コスト、代替エネルギーの可能性、環境への影響等、多角的視点から検討。さらに、「分散型エネルギー」の海外先進事例の調査をおこない、問題解決のための取り組みについて考えている。
以下、「エコプロダクツ2012」でパネルにて紹介した海外事例である。なお、各事例のタイトルに記してある名前は、それぞれ担当してくれた学生の名前である(敬称略)。
(ヨーロッパ)
- 自然エネルギー100%「風力発電」の島~デンマーク「ロラン島」(本間早也香)
http://cgi4.nhk.or.jp/eco-channel/jp/movie/play.cgi?movie=j1623058_20081229_0094
■デンマークで4番目に大きな島、人口約65,000人、基幹産業は農業。
■お荷物自治体から自然エネルギー100%の先進環境自治体へ~世界最先端の“田舎”から世界最先端の“風力発電”の島へ脱皮!
■陸上だけでなく、洋上にも「風力発電パーク」が作られており、島全体で約600基の「風力発電」風車が設置されている。
■年間34万軒の電力を供給。余剰電力は、首都コペンハーゲンや近隣諸国に供給。また、年間70トンのCO2を削減
- 「風力とバイオマス」国内初の自給自足~ドイツ「フェルトハイム村」(宮田祥吾)
http://blog.goo.ne.jp/kazu3333m/e/35646fac41d449bbc6135a17347c0ccc
http://deutschjuku.blog.fc2.com/blog-entry-49.html
■人口約140人の農家の集落、2010年ドイツ国内の自治体として初めて「エネルギー源の自給自足」を達成。
■村独自の電力ネットワークを構築。「風力とバイオマス」で各家庭に電力を供給。
2011年8月に連邦政府から「アイデア地域賞」を受ける。
■「風力発電」43基、発電電力量は年間1億4,000万kWh。延べ2kmの地下ケーブルで各家庭に電気を直接供給。
■「バイオマス」(木屑、畜産の糞尿など)で作った温水を各家庭に供給。
■電気料金は約18セント/kWh(ベルリンより2~3割安い)
■2011年8月再生エネルギーを利用した電気自動車充電スタンド完成~フェルトハイム村を走る電気自動車は100%村内で充電可能。
- 「コージェネ」地域熱供給システム~ドイツ「カールスルーエ市」(土方将平)
http://www.yumpu.com/fi/document/view/1472738/24kaigai-houkoku-saisyu/38
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1106/28/news037_2.html
■人口28万人の「カールスルーエ市」では、市街地にある2万3,00軒の住宅と1,200ヶ所の工場・事務所・公共施設が「地域熱供給システム」に接続している。
■約20気圧で送り出された75~130℃の温水は、消費側で“熱交換”され、低温水となり戻ってくる。
■断熱材で覆われた全長150kmの配管がガス管同様に市街地に網羅されている。
■消費者側は暖房・給湯に使用した熱分量分の料金(1kWhあたり4円)と月々の基本料金7ユーロ(約800円)を公社に支払う。年間で約10万円ほどの負担で、灯油を使用する場合に比べ安価。また、ボイラーを設置する必要がないのでスペースの節約にもなっている。
- 「深層地熱」利用、電熱両用施設~スイス「リーヘン市」(青樹翔平)
写真なし
■「リーヘン市」は人口19.2万人、1978年の住民投票により「原子力から市民を保護する法」が施行され脱原発成功。
■電力供給において再生可能エネルギーの割合が100%。地域暖房の熱源は、「地熱(温泉水)」 50%、「ガスコージェネ」44%「木質バイオマス」3%、「灯油」3%
■「リーヘン市」の地域暖房網は総長30㎞、2011年にリニューアル・拡張工事が行われ住民の約35%が住む5,000世帯の熱を供給。
■町の中心部にある深さ1,547mの帯水層から60℃の温泉水を汲み出し熱交換器で水に熱を写し、冷えた温泉水は1㎞程離れた帯水層に戻す。地域暖房用のお湯はヒートポンプで90℃に温度を上げる。このヒートポンプで消費する電力は「ガスコージェネ」で生産
- 夜も稼働「集光型太陽熱発電」~スペイン「ヘマソラール」(南川麻綾)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2833440/7875267
■スペイン南部にあるユニークな「集光型太陽熱発電所(ヘマソラール発電所)」は、曇りの日でも稼働。太陽光の降り注ぐ間に蓄えたエネルギーで夜間でさえ稼働が可能。
■「1日24時間、昼も夜も稼働する、世界初のソーラー発電所」~195haの円形状に配置された2,600枚の反射鏡が集めた光タワー。反射鏡1枚の面積は120㎡。
■メカニズムはシンプル。反射鏡が太陽光を集め、容器に入った溶融塩に熱をためる。タワーに集まる光の強さは地球に届く太陽光の1,000倍、溶融塩の温度は摂氏500℃を超える。この熱で蒸気を作ってタービンを回し発電する。
■エネルギー生産量はスペインの3万世帯の消費量分に相当、CO2削減量は年3万トン。
(アフリカ)
- 砂漠の「太陽熱」+「風力」~アフリカ「デザーテック計画」(平松秀紳)
http://4ki4.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-d156.html
■「デザーテック」は、「太陽熱発電」や「風力発電」を使って砂漠で電力を産み出し、その電力を消費地に送電することを促進する。非営利団体のDESERTEC Foundationが推進。
■サハラ砂漠の6,000平方マイル(17,000キロ㎡)の領域に「集光型太陽熱発電システム」「太陽光発電システム」「風力発電システム」を分散配置。生み出された電力は、スーパーグリッドの高圧直流ケーブルでヨーロッパおよびアフリカ各国に送電。MENA諸国の電力需要の大部分を賄い、中央ヨーロッパの電力需要15%を賄うことができる。
(北アメリカ)
- 米国初「洋上風力発電」~アメリカ・マサチューセッツ州ケープコッド「ケープ・ウインド・プロジェクト」(奥原明実)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2796355/7111820
■「ケープ・ウインド・プロジェクト」は、ケープコッド南方沖のナンタケット海峡に、高さ約135mの風力タービン130基を設置する構想。いよいよ着工が開始される。米国で洋上に「風力発電」施設が建設されるのは初めて。
■稼働が開始されれば、ケープコッドとその近くにあるマーサズ・ビンヤード島やナンタケット島などの年間電力需要の約75%を賄うことができ、同州のCO2排出量を年間73万3000トンも削減できる。
■「ケープ・ウインド・プロジェクト」は、建設および風力発電所の稼働・運営によって米国内で約1,000人の雇用を創出すると期待されている。
- 「太陽熱温水器」活用、島国の新エネルギー~カリブ海「バルバドス」(大森早希子)
http://news.ameba.jp/20110406-229/
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2011040606
■「バルバドス」は、島全体がサンゴ礁でできている島国。面積431㎢と日本の種子島より小さい国だが、家庭や企業で約5万台の「太陽熱温水器」が利用されている。
■「太陽熱温水器」は、太陽光に含まれる赤外線を熱として利用することで、水を温める装置。太陽光の50%を熱として利用できる。既存の再生可能エネルギー利用機器の中ではエネルギー変換効率や費用対効果が最も高く、20年程度の耐久性が確認されている。
■政府支出800万バルバドス・ドル(約15億円)の削減に成功。「太陽熱温水器」が削減するCO2は、1台あたり年間428Kになるという。
(南アメリカ)
- 「小水力発電」~ブラジル「ARAPUCEL」(本橋和樹)
http://www.vfj.co.jp/audif/pdf/carbonoffset/arapucel-small-hydroelectric-power-plants-project.pdf
■ARAPUCEL「小水力発電プロジェクト」は、ブラジル・マットグロッソ州にあるジャウル川の水流を利用して発電する「小水力発電」CDM(クリーン開発メカニズム)事業。
■水力発電所は、ジャウル川に沿って3ヶ所設置。それぞれ20MW、28MW、26MWの電力を生み出すことが可能。
■プロジェクトの実施により5つの効果が生まれた。①温室効果ガスの削減による大気環境の改善 ②地域に安定した電力の供給 ③現地雇用の創出 ④電力価格の安価による生活の質の向上 ⑤子どもたちへの環境教育活動など環境活動の展開。
(アジア・オセアニア)
- 「太陽+火力ハイブリッド発電」~オーストラリア・クイーンズランド州「Kogan Creek Solar Project」(小林明子)
http://tabimag.com/blog/archives/1580
■「太陽」と世界最大な埋蔵量を誇る「石炭」、この2つの得意分野を統合した「ハイブリッド発電所」を石炭の町、クイーンズランド州コーガン・クリークにオーストラリア政府が2011年4月に着工。
■建設中の『ソーラー・ブースト・プロジェクト』は、現在稼動中の火力発電所にソーラーシステムを付加することで、両方の利点を利用。巨大な「太陽熱温水器」+火力ボイラーによる発電所。
■注目すべきは、ソーラーパワー(太陽熱の力)を最大限利用する点と、使った蒸気を再び水に戻して再利用する点。これにより、より少ない燃料で済み、石炭を燃やす量が減少できる。この仕組みで年間35,000トンのCO2削減。
■太陽熱システムで最大44メガワット(太陽熱ピーク時)の発電が見込まれ、完成(2013年予定)すれば、世界最大の『ソーラーテクノロジー統合火力発電所』が誕生する。
- 電力源「太陽光」100%~南太平洋島しょ群「トケラウ」(平松早也夏)
■南太平洋に浮かぶニュージーランド領の島しょ群。人口1,500人。
■世界で初めて全電力を太陽光のみでまかなうシステムを導入。総工費約5億6,000万円。
■電力を太陽光でまかなうことにより、これまでディーゼル発電に要していた燃料費約6,500万円を節約、浮いた予算を社会福祉に。
■今後は、トンガやクック諸島などとも持続可能エネルギー開発で協力する予定。
- 無電化地域の村落電化「太陽光発電」によるバッテリーチャージステーション~タイ・カンチャナブリ県山岳地域(牛山大輔)
http://www.showa-shell.co.jp/society/philanthropy/solar.html
■タイ・カンチャナブリ県の無電化村に「太陽光発電」設備を電源としたバッテリーチャージステーション(バッテリー充電所)を設営することで「村落電化」を実施。
■2003年、タイ国政府は、この地域に対し、自然エネルギーを有効活用している地域として表彰。
■タイ国政府は、このシステムを模範として、同様のシステムを全国300ヶ村に設置。
武蔵野大学環境学部 講師 明石修
京都大学大学院地球環境学舎修士課程修了、博士(地球環境学)。国立環境研究所特別研究員等を経て、2012年より現職。専門は、環境システム。社会、経済、技術など総合的観点から持続可能な社会の実現について研究を行っている。
著書:『日本低炭素社会のシナリオ』(共著 2008年、日刊工業新聞社)
武蔵野大学 http://www.musashino-u.ac.jp/