2013/06/28 ニュース
日本地熱協会会長に聞く~動き始めた「地熱発電」、ベース電源として期待も高まる~

資源エネルギー庁がまとめた「エネルギー白書2013」の中で、今後導入拡大が期待できる再生可能エネルギーとして「地熱発電」にスポットを当てている。また、資源エネルギー庁によると、出力3万kW以上の大規模な開発案件が現在全国で14ヶ所進行中とのこと。国内に豊富な資源がありながら開発が進んでいなかった「地熱発電」だが、ここにきてようやく動きが出てきた。2012年12月には「日本地熱協会」も設立された。その「日本地熱協会」の会長に「地熱発電」の現状・課題・将来について熱く語っていただいた。

 

日本地熱協会(JGA)会長 田中進氏

(略歴)

1955年生まれ 早稲田大学政治経済学部政治学科卒

1977年 出光興産株式会社入社 海外部を経て、1994年テヘラン事務所所長に赴任。1997年から海外部外航課・原油課課長歴任後に中東事務所所長、基礎化学品部次長を経て、2010年出光SMマレーシア社長に就任、2011年には出光ケミカルズマレーシア社長も兼任。翌年2011年には出光オイルアンドガス開発常務取締役、2012年からは出光興産株式会社資源部地熱事業統括マネジャーを兼任し、その年12月新設なった「日本地熱協会」会長に就任。

 

 

 

Q,はじめに「日本地熱協会」設立の経緯をお聞かせください。

 

まず地熱エネルギーは、CO2の排出が少ない純国産資源であり、長期的にみれば経済性も悪くないということで、資源に恵まれず、電力系統が国際的に孤立している日本にとって有用な資源であります。また、2011年から地熱資源開発のための国家支援制度が刷新されるとともに、再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタートしています。さらに、今まで制限されていた自然公園内の開発も一定条件内では門戸が開放されるなど規制緩和も行われており、地熱開発への期待の高まりを感じています。

 

しかし、日本での地熱発電所の建設は過去10年にわたって滞っていたこともあり、今後地熱発電の調査、開発、さらに発電所の建設まで結びついていくためには地熱発電をはじめ発電に関係している企業の連携を横断的に強化していくことが必要ですし、関係する行政機関や地方自治体との密接な連絡が不可欠です。一方、地熱資源開発が環境に与える影響などに関し地元関係者から不安の声も聞こえています。環境との調和や温泉事業者との共生は開発を進めるにあたっての最重要課題と考えています。

 

こうした環境の中で、地熱蒸気供給を行う企業4社の団体である「日本地熱開発企業協議会」のメンバーを中心に業界有志が議論を重ねてきました。そして、地熱開発会社、発電機メーカー、エンジニアリング会社、技術コンサルタント会社など地熱開発に関係する企業に対して業界全体を代表する団体を作ろうと広く声をかけ、日本の地熱発電事業の健全なる普及促進を図ることを目的とした「日本地熱協会」が昨年2012(平成24)年12月4日に発足しました。12月の設立総会時は会員26社でスタートしましたが、東京・東神田に協会の事務所を置き、正式にプレスリリースを発表した2月初旬には33社となり、3月には9社参加していただき、会員数は42社となっています。また、現在参加を検討していただいている企業が複数社あり、大変心強く感じています。

 

Q.「地熱発電」の現状を海外の情報を含めお聞かせください。

 

火山大国である日本は同時に地熱大国でもあり、日本全体で2300万kW相当の地熱のポテンシャルがあるのですが、実際に稼働しているのは、わずか51.5万kW(設備容量)です。国内の総発電量に占める割合は0.3%に過ぎません。残念ながら、高いポテンシャルに対して使われている量が少ない、というのが現状です。今後の潜在能力は非常に高いものがあります。また、国内で稼働している地熱発電所は現在17ヵ所。17ヶ所のうち東北・北海道に8ヵ所、九州に8ヶ所と火山の多い東北地方や九州地方に集中しています。

 

 

 

海外の地熱発電の現状に関しては、まだ協会として資料を集積しておりませんので、詳細を述べることができませんが、ただ日本の地熱資源ポテンシャルは世界3位といわれており、日本の地熱技術は世界最高を誇っています。世界の多くの地熱発電所では日本製タービンが使われており、また、探査・掘削技術も世界トップクラスです。こうした技術と現状の問題点をクリアすれば、日本での地熱発電量の増大は、大いに期待できると思います。

 

一方、地熱発電は他の再生可能エネルギーと比べて設備利用率(出力に対する発電量)が約70%と高く、風力の約20%、太陽光の約12%と比べて、安定した電力供給源といえます。2012年7月に始まった固定価格買取制度で出力1.5万kW以上の場合に26円/kWhの買取価格が設定されたことにより、高い設備利用率と合わせて収益が確保しやすくなっており、地熱発電事業への追い風が吹いている、というのが現状です。

 

Q.現状の「地熱発電」に関する課題・問題点は何ですか

 

日本は地熱資源に恵まれている。そして、発電できる可能性も確認されている。それなのに地熱発電事業は進まなかった理由は、たくさんあります。例えば長いリードタイムの問題。地熱発電は計画から着工、操業までの期間が約10年かかります。調査や試験掘削、環境アセスメントなどに時間がかかるなど、資源開発特有のリスクがあります。そして、自然公園法による制約。地熱の有望な資源は自然公園地下に眠っています。また、温泉法による制約や他の電源との比較、競争による国の予算削減や電力自由化によるインフラ(送電線)のコスト増など、課題・問題点が山積みでした。でも3.11以降、政府のエネルギー政策の見直しや地球温暖化の問題などが再確認されたおかげで、純国産エネルギーであり、発電時のCO2排出量はほぼゼロであり、環境適合性に優れていること。そして、他の再生可能エネルギーと比べて、設備利用率が格段に高いことなど、地熱発電は、ベース電源として脚光を浴びるようになってきました。地熱発電は、環境負荷の少ないクリーンエネルギーであり、分散型エネルギーでもあるのです。

 

Q.最後になりますが、今後の協会の活動、会長の地熱への思いをお聞かせください

 

「日本地熱協会」の役割は、国内外の地熱開発の状況を調査研究し、地熱発電のメリットや効率性を広く社会に訴えていくとともに、自然環境や温泉への影響を懸念している関係各位の方々の不安や質問に真摯に答え、懸念を解消して、地域の方々との共生を図っていくことにあります。協会は設立してまだ1年も経っておりません。5月に初めて総会を開き、今後の活動について議論をしました。今後の具体的な活動としては、ホームページによる広報活動、官公庁に対する政策提言や意見交換、会員各社間の情報交換など、地道で基本的な活動をしっかりと行っていくことだと考えています。また、関係諸官庁や自治体からの支援もいだだき、さらには日本地熱学会に代表される有識者からのアドバイス等もいただいて、日本における「地熱発電」の発展に寄与できればと思っています。

 

ご協力ありがとうございました。

 

(取材)若生幸成