2013/06/19 ニュース
分散型電源各社の市場戦略②--常に地元重視・共存の姿勢で太陽光発電事業を 木南陽介・リサイクルワン社長に聞く
 東日本大震災以降、昨年7月FIT制度が創設されたこともあり、太陽光発電事業はブーム化した感がある。しかし、現在見られる案件には企業の遊休地や固定資産税対策と見られるものも散見される。本当の意味で、プロジェクトとして成立しているものはむしろ少ないと言えるのではないか。プロジェクトでもただパネルを設置し売電するだけで、地域貢献の観点はなおざりになってはいないだろうか。そこで、茨城県と千葉県で大型プロジェクトを手掛けている木南陽介社長(写真)に、太陽光発電を事業として成立させる秘訣やそのあるべき姿などを伺った。(今 淳史)
 
株式会社リサイクルワン 代表取締役社長 木南 陽介(きみなみ ようすけ)氏
 
略歴
京都大学総合人間学部人間学科卒業(主専攻:環境政策論、副専攻:物質環境論)。在学中、有限会社メディアマックスジャパンを設立し代表取締役に就任。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、2000年5月株式会社リサイクルワンを設立、代表取締役に就任。現在に至る。
 
●基本はコンサルティング
 
 --設立当初は廃棄物の管理やマッチングサービスを行っていたと思うが、太陽光発電事業とコンサルティングサービスに乗り出した理由は。
「当初は確かにコンサルティングを主眼にしていたが、当社の事業の柱は後に述べるように3本柱となっている。
 一例を挙げれば、2000年以降、相次いでリサイクル関連法規が整備された時期があった。リサイクルの関連法規を作る場合は環境省や経済産業省が顧客になる。その対応策を考える場合、今度は全国の自治体、そこで生まれる事業機会に参入しようとする企業が顧客になる。2008年には、京都議定書が発効し、CO2関連の受注がどっと増えた。その後、今度は2011年の東日本大震災以降、再生可能エネルギー関連の仕事が増えたという経緯がある。
 現在でも我々の基本はコンサルティングだ。再生可能エネルギー分野では昨年7月、FIT制度が創設され、市場性が確立されたため、発電事業に転換していった。もちろん、発電事業と並行してコンサルティングサービスも随時行っている。当社の事業は3本柱で成立しており、1つは環境ソリューション、2つ目がプラスチックリサイクル、3つ目が太陽光発電事業などの再生可能エネルギー事業だ」
 
 --その1つの柱である再生可能エネルギー事業は、どう進捗してきたのか。
「再生可能エネルギー事業には平成21年頃から着手した。元々は京都議定書を受けた低炭素という発想が出発点になっている。その頃経済産業省は、地熱や太陽光などの再生可能エネルギーをどう普及させるかという普及政策を整備しようとしていた。そのサポートから始まっている。そこで、政策から実際に自治体のどうやって地元の再生可能エネルギーを利活用するかという施策作りにも参加した。今後はこういったコンサルティングニーズが徐々に縮小していくと考えているし、我々はビジネスモデルや技術面でノウハウを蓄えているので、発電事業に進出している。
 今、社会で足りないのは、資本を用意し、確実な技術でプラントを整備し、発電事業を実現するプレイヤーだ。現状ではそういった発電事業に軸足が移りつつある」
 
 --外部向けのコンサルティングはどう進行するのか。
「最初期の段階は診断を行う。我々には案件が成立するのかどうかという問い合わせが非常に多い。初期の診断では、非常に多様な面から事業計画を検討するが、まず土木系、送電面、地権者などの面からトータルに見て、事業が成立するかどうかを判断する。
 このため、入り口のスクリーニングを重要視している。我々は、あまり小型の案件では自社開発を行わない。そこで比較的小規模な案件の場合、土地の話があれば発電事業者にスポンサーを紹介することも行う。その入り口の段階で、収支や事業計画のモデルを作るまでが我々の仕事だ。その後のパネル設置などは顧客の方で手配してもらう。
 既に述べたように、我々は自前で発電事業を行う。仮に出力が20MW超の大型案件の場合は、我々が出資し事業に参画させてもらえるのであれば、コンサルティングフィーは顧客から頂かない」
 
 
●自社開発のボーダーラインは20MW
 
 --出力規模で、これ以上は自社開発するというような基準は。
「20MWを超える場合だ」
 
 --茨城県と千葉県で、共同事業の形でメガソーラーを整備中だが。
「まず、茨城県潮来市では、17haの敷地に出力14MWの発電設備を大手エネルギー会社と共同で建設中だ。千葉県富津市の案件(完成予想図)はミツウロコグリーンエネルギーとの共同事業で、敷地面積は44ha、出力が40MWだ。だから、かなりの企業でなければ設計・調達・建設を任せられない。総額120億円のプロジェクトで、設備の受注規模だけでも約100億円になるものだ。 その規模を任せられる企業というと、おのずと10社程度の大手ゼネコンや大手エンジニアリング会社に絞られてくる。我々はその中の3~4社にコンタクトした。土木造成が理解でき、電気設備も理解でき、送電面にもノウハウがある、これらのポイントを確実に押さえている企業で、短工期・低コストで建設できる総合力を求めた。
 大手ゼネコンの場合は、確かに土木建築は得意だが、電気設備のノウハウは少し手薄である。一方、電力会社系の設備会社は電気工事では確かにプロだが、逆に土木面は詳しくないことがある。加えて、太陽光パネルは新素材で、この中身を理解している会社もそう多くはない。それらを総合的に満足する企業を採用するようにしている。
 千葉案件で採用した専業エンジニアリング会社は既に自社で出力20MW超のメガソーラー発電所を所有し運営していた。他の専業エンジニアリング会社にはその経験がない。そこだけがポイントではないが、非常に明確な差別化のポイントだったことは確かだ」
 
 --富津市の次の案件のめどは。
「現在、着目している候補地が3か所ある。ブロック的には中部、九州、関東で、約15~20MWの出力規模で検討している。今年度内の上期には2か所を着工し、下期に残り1か所を着工する予定だ。プラントサイトを選ぶ場合、都市部に近ければ地価の問題がある。結局、送電距離と日照条件が重要だ」
 
 --最近、電力会社の系統連係が限界という話が聞かれているが。
「仕方ないと思える側面はある。本当はもっと電力会社に頑張ってほしいところだが、こういう話は経済産業省の領分だと思う。経済産業省でも風力発電の有望地点である北海道・東北でのひっ迫が甚だしいという認識はある。これはこれ以上我々がとやかく言う話ではなく、事態の推移を見守りたい。現状の先を見据えて、国が北海道・東北の問題を解決してくれることに期待したい。
 もちろん現状でも、送電線の空きがある地域は探し続けている。確かに、送電線は埋まっては来ている。千葉県では、我々のプロジェクトの隣接地でもメガソーラー建設が計画されているが、この2つのプロジェクトでもう送電線が埋まってしまう。だから当面、我々がやるべきことは送電線の空いている地域を探すことだという気がしている」
 
●プラントサイトの自治体とWIN-WINの関係で
 
 --太陽光発電事業で、事業運営のあるべき姿とは。
「我々の事業モデルは、プラントサイトに現地法人を設立する形が基本だ。ファンドなどが関わる場合では、自治体に法人税が支払われない。我々は発電事業を通じた地域貢献も重視しており、必ず現地法人を設立するようにしている。当社と市中銀行、電設会社、他のスポンサーなどと現地法人を設立すると、自治体は固定資産税の他に法人税などの税収も期待できる。
 潮来市の案件では、波及効果にも配慮した。プラントサイトに隣接する道の駅いたこは、東日本大震災の被害で2週間電力が復旧せず大変に苦労したと聞く。そこで、潮来市長が道の駅を防災拠点にという構想を掲げていたので、我々はその構想に呼応する提案を行いコンペに勝つことができた。その提案とは、まず発電事業の収入で蓄電池を調達し、それを道の駅に寄付するというものだ。そうすれば近隣の住民が充電に来れるようになる。それから、道の駅の屋根に設置する太陽光パネルも寄付した。このため小規模ではあるが、市も自前の電源を持つことができた。
 もう1点は観光面だ。これは市が主催する観光イベントなどに、発電事業収入の約1%を拠出する。市は支出の性格上、そういうお金は出しにくい。話を元に戻すと、我々の場合プロジェクト・ファイナンスで銀行が参加してくれないと事業が形にならない。スポンサーは非常に重要だ。我々は茨城県の場合、事業主体に4割弱出資しており筆頭株主になっている。ここにミツウロコグリーンエネルギーや銀行系のファンドなどが参加している。このコンソーシアムの信用力で、大規模な銀行ローンが獲得できている。だからどうしてもこういった自社出資型の事業スキームにならざるを得ない」
 
●今後は小水力や地熱にも注力
 
 --小水力など他の再生可能エネルギーへの取り組みは。
「我々も小水力に関心がある。約3年前から海外案件の検討を行っており、一定のノウハウはある。国内でFIT制度が創設されたので、国内にシフトしているが、現在でもあるサイトで検討を進めている案件がある。出力規模では500kW~数MW単位だ。ただ、小水力ではMW単位の出力が確保できる案件がなか
なか見られない。我々の専門性を生かそうとすると、もう少し規模感があり、事業者を共同JVとして集め、自治体にも固定資産税が支払えて、地元との連携がうまくできる形が理想だ。それには自治体サイドの予算も必要なので、どうしてもある程度の出力規模が確保されないと厳しい」
 
 --地熱発電はどうか。
「関心はある。追っている案件もある。地熱発電は地元の温泉協会に反対されるような場合もあるが、確かに有名温泉街のある地域では必要性がない。一方、他に収入源がないというような温泉街は協力的だ。そこは2つの場合があると議論した方がいい。我々は地域のためになるならばやりたいと考えている。
 太陽光はこの2年でどっと案件が出てきた印象だ。今年1年は太陽光が再生可能エネルギー分野の主力だが、少しずつ小水力と地熱にも展開を広げていきたい。 その他バイオマス発電も、FIT制度が適用されるがプロジェクトとしての難易度は高い。相当量のバイオマス燃料を安定的にどう確保するかが課題だ」
 
 --海外での展開は。
「もちろんあると思う。例えば、東南アジアのメガソーラー案件などはぜひ手掛けたい。実績の側面もあり、まず太陽光発電から入っていく形になるだろう。2番目が小水力になるのではないか。国で言えば、現状ではタイとインドネシアが有望だ」